テレビドラマの収益構造を見直す
こうして勢いに乗って放送が始まると、新聞社の記者から「これがタダで見ることができるなんていいですよね」と言われたのが、何よりうれしかったという。第4話の家の爆破シーンは、CG制作だけで3週間以上要した。丁寧に作り込んだ映像表現は潤沢な制作費があってこそだが、制作するのはローカル局の関西テレビ。限られた予算の中で、制作する必要があった。では、その費用は一体どのように捻出したのか、そんな気になるところも答えてくれた。
「通常の制作費だけでは成立しにくい。だから、放送後の配信や海外セールス、ノベライズ、ムック本、グッズ、LINEスタンプなど、コンテンツビジネスとしてトータルで収支が合うように考えました。そのためにスケジュールも前倒しに進め、通常のドラマよりも早く撮り切りました。何より、そもそもテレビドラマの収益構造を見直すことも考えていくべきだと思ったからです。カンヌでは決して制作費について驚かれることはありません。制作費をかけるのは当たり前だからです。回収の方法だけ考えればいいのです。権利問題も含めて、日本だけが"ガラパゴス"になりかねない。今回はコンテンツ関連でいろいろ協力してもらいながら、一度やってみようということになりましたが、売らないと大赤字のままですよ(笑)」
全て回収されるまで時間はかかるようだが、『CRISIS』は現在、海外7カ国で同日放送され、国内では有料提供する動画配信サービスにおいて、カンテレ制作ドラマの中で歴代最高の購入数を叩き出している。
また、タイムシフト(録画)視聴率(ビデオリサーチ調べ・関東地区)の高さにも注目。第1話は、タイムシフト視聴率11.0%をマークし、リタルタイム視聴率の13.9%を加えて重複分を除いた総合視聴率は23.6%だった。これはカンテレ制作の「火9ドラマ」(2016年10月~)として初の大台20%超えとなり、歴代最高の記録となった。
「リアルタイムは当然ながら、作り手として録画率の高さも満足しています。総合視聴率の結果を受けて、番組提供するスポンサーからも満足度が高いと聞いています。テレビだから一瞬一瞬で消えてしまう番組もあっていいけれど、ドラマは何回も見たいというものを作りたい。なんか気になってもう1回見たくなるような、見る価値のあるドラマを目指しています」
各局に"規格外"のドラマを作ろうと伝えたい
そして笠置氏は、今のドラマに対する疑問を投げかけた。
「昔は、一石を投じたいという作り手側の熱い思いのあるドラマがたくさんありました。つまり、池に石を投げ、波紋が広がり、その波紋をみてどう思いますか?というメッセージ性のあるドラマ。『1から10まで見て、感動しましたよね』という押し売りではなく、視聴者自身に考えてもらう、気になるドラマを意識して作られていました。そういう意味で、倉本聰さんは今、気になるドラマ(テレビ朝日『やすらぎの郷』)をやってらっしゃると思います。編成面やデータから、満足できるドラマもあっていいと思いますが、大ヒットした『半沢直樹』(TBS)もそうした考え方だけだったら成立してないですよ」
今、どんなドラマが視聴者に響くのか。プロデューサーの立場から何ができるのか。自分自身にも問いかける。
「作り手や出演する役者が、本当に面白いと思って真剣にやっているお芝居は引き込まれるもの。本当に楽しいものを迷いなくやれば、テレビを見る側にその面白さは必ず伝わります。ドラマのプロデューサーは、信号機だと思うのです。こっちは赤です、こっちが青ですと、皆を惑わせることなく同じ方向に向かわせることが一番の役割だと思っています」
さらに、今回のキャスト陣への感謝も口にしながら、今後のドラマ界への思いも語った。
「小栗くんはそれをよく分かってくれていて、役者の座長として、最後までこの番組を信じてやりきりましょう!とプロデューサー的な役割もしてくれました。それに対して、西島くんも『命賭けるよ、とんでもない革命を起こそうとしているんだから』と協力してくれました。この2人が先頭に立ち、走ってくれたから完成することができました。ゲストの杉本哲太さん、小市慢太郎さんらが『とんでもない現場だね』と笑顔で驚かれるたびにうれしかったです。とにかく、奇跡がたくさん起こりました。若いプロデューサーをはじめ、カンテレだけでなく各局に"規格外"のドラマを作りましょうと伝えたいです」
作り手の思いと役者の息づかいを感じると、自ずと受け取る側もドラマと向き合いたくなるものだ。緊張感が続く最終章も見逃せない。