80以上の職種向けのWatsonを用意
Watsonが業務効率の向上に役立つのはわかったが、すぐに業務に導入できるという会社はほとんどないだろう。人工知能は機械学習であれディープラーニングであれ、大量のデータを処理させて学習する段階を経なければ、その真価を発揮できないからだ。
それだけのデータを入力・処理させるのにも時間はかかるし、そもそもデータ自体を用意できないというケースも多いはずだ。
そこでIBMでは、あらかじめ業種ごとに分けて必要なデータを学習させておいたWatsonを準備することにした。業種別のスターターキットとも言えるこれらは、すでに十数の業種向けのものが発売済みだが、今回の発表でこの種類が約80にまで一気に増えることになる。
最終的には200以上の職種を準備するのが目標ということだが、このために相当なデータを準備して学習を続けさせているという事実からも、IBMの本気を感じさせる。将来AIを活用したい企業にとって、ゼロから構築するのではなく、ある程度の学習を済ませたセットから利用できるというのは、非常に大きなアドバンテージになるはずだ。
また、Watson専用のサーバーを購入するのではなく、IBMクラウド上でWatsonを利用するための「IBM Watson Developer Cloud」も用意された。これはIBM Bluemix上でWatsonの諸機能を利用するためのAPIで、Webアプリケーション上でデータ解析や自然言語対話などのWatsonの機能を利用できるようになる。
さらに、約100万円からWatson開発が可能になる「Watsonスターターキット」の提供も開始された。フルセットのWatsonを導入するコストを賄えない企業にとって、スケーラビリティの上からもクラウド上でWatsonが利用できるのは大きなメリットになるだろう。
さまざまな事例の紹介が行われたIBM Watson Summit 2017だが、筆者としては初めて具体的な形でWatsonの実力を知り、またIBMがWatsonにかける本気度を感じ取れる機会となった。
人をAIがサポートしてより高い効果を生むコグニティブコンピューティングの理念は、すでに高いレベルで実現可能な現実のものとなっている。今までは大企業向けのシステムという感想だったが、たとえばスタートアップなどで法務などに人員やコストを割くことが難しいような規模の企業にこそ、判例や法解釈のチェック用にWatsonを導入する価値があるだろう。
数年後にはWatson採用の有無や期間の長さによって企業の生産性や成長性に大きな差が出てきても不思議ではない、そう思わせるものがあった。