だが2017年になり、1月20日にドナルド・トランプ大統領が誕生して共和党政権となると、新たにFCC会長に就任したAjit Varadaraj Pai氏はこうした合併交渉に比較的寛容であり、業界再編が一気に進むことになるとの観測が高まっている。
典型的なものでは、AT&TによるTime Warner買収について「(無線通信に関して周波数の移動が発生しないようであれば)FCCの管轄外だ」として、買収阻止や審査などの何らかのアクションを起こす可能性を否定している。
米携帯電話業界は過去数年ほどは飽和状態が続き、新規顧客獲得も頭打ち状態となっている。一方で競合のために通信料金の引き下げ圧力が高まるなか、ネットワーク設備の維持と将来の5Gに向けた膨大な投資が必要となっており、利益を圧迫する傾向が明確になりつつある。そのため、AT&TのDirecTV買収やVerizonのYahoo!ビジネス買収にみられるように携帯キャリアがコンテンツやサービス方面の拡充を進めるなど、新たな収益源確保に向けた動きが進みつつあった。つまり、トランプ政権下では今回のSprintとT-Mobile USA合併だけでなく、買収・合併に関するさまざまな可能性が存在し、一気に業界再編が進むという観測が高まっている。
合併が成功する可能性は
大企業の買収・合併に関するポリシーでは、このFCCのほか、米連邦取引委員会(Federal Trade Commission:FTC)による独占禁止法の観点から審査が進められる。おそらくFTCについてもトランプ政権下では同様のポリシーでの運営が行われるとみられるが、最大の障壁は合併後の経営プランの部分だと予想される。
Reutersなどが指摘しているが、この種の大企業同士の合併では経営効率化のために人員削減が不可分であり、特に設備のメンテナンスやサービス人員配置のために大量の雇用を行っている通信キャリアの場合、合併により全米で少なくとも数千人規模のレイオフが発生すると予想される。米国での雇用維持と創出をスローガンに当選したトランプ大統領にとって、大規模なレイオフを伴う合併は許しがたいはずだ。
そのため、孫社長率いるソフトバンクとSprintがT-Mobile USAとの合併交渉を成功させるにあたっては、合併によるメリットをきちんと説明してFCCとFTCの了解をとりつつ、レイオフに関してトランプ大統領による横やりが入らないよう、細心の注意を持って合併プランを提唱することが鍵となる。
おそらく決して容易な話ではないが、少なくとも門前払いに近い形で提案を阻止された民主党政権時代に比べ、「0%が10%や20%」になるトランプ大統領の共和党政権のほうがはるかに成功の可能性が高いという状況だ。孫氏が決算会見で「さまざまな可能性を探っている」とコメントしたのは、ビジネスマンとして大きな可能性を秘めた合併提案に光を見出したのかもしれない。昨年2016年末に大統領選勝利後のトランプ氏をすぐに訪問して歓迎の意を示したあたりも、こうした潮目の変化を感じ取る同氏の感性の鋭さを感じずにはいられない。