日本経済新聞は5月11日、ソフトバンクグループが米携帯電話第3位のT-Mobile USAに対し、ソフトバンクグループ傘下で同第4位のSprintとの経営統合を提案すると報じている。折しも前日10日には2017年3月期の四半期決算を発表した際、ソフトバンクグループ社長の孫正義氏が記者からの質問に対して可能性を探っている旨の発言をするなど注目を集めていた。2013年にスタートし、かつて米当局に阻止された合併案が、なぜいまになって再び息を吹き返してきたのか。このあたりの事情を整理してみる。
トランプ政権誕生が変えた米国の通信事情
3年近く前に終わったSprintとT-Mobile USA合併案が蘇りつつあることを2月中旬に最初に報じたのはReutersだ。同紙によれば、米連邦通信委員会(Federal Communications Commission: FCC)が周波数オークションを行っている期間中の合併交渉は禁止しているため、この時点ではまだソフトバンク側はT-Mobile USAの親会社である独Deutsche Telekomに対して打診は行っていないものの、同オークションの終了する4月中旬以降にソフトバンク側が動き出すのではないかとの関係者の声を報じている。
日経だけでなく、Bloombergも同様の動きを5月12日に関係者の情報として報じており、おそらく5-6月中には事態が一気に動くことになると予測される。
問題はなぜこのタイミングかという点だが、トランプ政権誕生が寄与したことは間違いない。通信行政のポリシーを決めるFCC会長は歴代の大統領の任期に合わせて任命が行われるサイクルを繰り返しており、前回2013-2014年のタイミングでソフトバンクによるSprintとT-Mobile USAの合併案を阻止したのは当時FCC会長のTom Wheeler氏だった。両社の合併で巨大企業が誕生し、米国の携帯通信キャリアがVerizon Wireless、AT&T、Sprint+T-Mobile USAの合併会社の3大キャリア体制となり競争が鈍ることを嫌っていたといわれる。 同じバラク・オバマ大統領の民主党政権下においてFCC会長だったJulius Genachowski氏も2011年にAT&TによるT-Mobile USA買収を阻止しており、巨大企業誕生を許さず競争状態を維持することがオバマ政権時代の基本方針だったようだ。