今回歩く高水三山ハイキングコースは、高水山(たかみずさん・759m)、岩茸石山(いわたけいしやま・793m)、惣岳山(そうがくさん・756m)という3つの山を縦走する、東京都の青梅・奥多摩エリアの人気ハイキングコースだ。ひとたび山道に分け入れば、ありのままに近い自然が保たれているのが最大の魅力。都内であることを忘れてしまいそうになる、その豊かな自然を一歩一歩、踏みしめてみよう。
多くの山が観光地化され、ケーブルカーやロープウェイ、さらには山道の途中や頂上に売店や飲み物の自販機などが設置されていることも多い。気軽に登山を楽しむ、という点では好ましいことではあるものの、時には手付かずの自然を感じながら、かといって上級者でなくても登れるというハイキングを楽しんでみたい。高水三山ハイキングコースは、そんな時にぴったりな山だ。
村上春樹氏の小説『1Q84』の舞台を歩く
新宿駅からJR中央線の快速とJR青梅線を乗り継いで、およそ1時間15分ほどの軍畑(いくさばた)駅が、高水三山ハイキングコースの登山口への最寄駅だ。駅改札を出ると、パンや菓子などを売る小さな商店と飲み物の自販機があるので、ここで飲み物を購入しておこう。この先、ハイキングコース内には飲み物を購入できる場所はない。
まずは、駅改札を出てすぐのところに立っている案内板を見て、これから歩くコースを確認しよう。軍畑駅から北へ向かい、高水山、岩茸石山、惣岳山の尾根伝いの道を歩き、最後は青梅線の御嶽(みたけ)駅に戻る、ゆっくり歩いて4~5時間ほどのコースだ。
駅から線路沿いを進み、小さな踏切を渡って坂道を下りていくと、まもなく都道に合流する。青梅線の鉄橋を背に、このまましばらくは都道を歩いていこう。歩き始めて15分ほどで、「平溝橋」という橋のたもとで道が分かれており、高水山へは左の細い道を進む。
昔懐かしい火の見櫓(やぐら)や茅葺き屋根の農家などが点在する長閑(のどか)な沢沿いの道を歩いている内に、次第に山の懐へと入って行く。この辺りの地名は、「二俣尾(ふたまたお)」というが、村上春樹氏の小説『1Q84』に登場した場所だということを、ふと思い出した。
砂防ダムで知る人々の暮らし
平溝橋の分かれ道から10分ほどの高源寺という禅寺の門前で、再び道が分かれる。ここには大きく「高水山登山道入口」と看板が出ているので、迷うことはない。この先は、いよいよ勾配がきつくなるが、しばらくは舗装された道が続く。周囲の青々とした新緑を眺めながら坂道を上っていくと、なぜか釣り堀があり、その奥の石段からいよいよ山道がスタートする。
注意しておきたいのは、このハイキングコース周辺では、時折、クマが出没することがあるということだ。休日の人の多い時などは問題ないだろうが、一人歩きをするなら、クマを寄せ付けないように、鈴の音やラジオをつけながら歩くなどの対策をしておいた方がいい。
さて、石段を登っていくと、正面にまるで城壁のような砂防ダムが見えてくる。このような自然の恵み豊かな場所で生活するのは、災害の危険と隣り合わせだということを改めて教えられるような建造物だ。
高水山山頂の前に常福院で小休止
高水山の登山道は途中、踊り場のような平地が何カ所かあるものの、基本的にずっと坂道が続く。一緒に登り始めた若者たちはスイスイ登っていくが、普段運動不足の身には、少々キツく感じる場所もある。時々休みを取り、持参したペットボトルの水で喉を潤しながら登っていく。
励みになるのは、「合目」を示す石柱の存在だ。「六合目」の石柱を過ぎた辺りに木のテーブルと椅子が置かれた休憩場所があり、その先の少しキツい上り坂を我慢すれば、あとは割と緩やかな道が続く。
山道に入って1時間弱で、不動明王を本尊とする常福院という寺院に到着。よくぞ標高800m近い山の上にこれだけの建物を建てたと思うくらい立派な寺院だ。本堂の裏手に公衆トイレがある。この先はゴールまでトイレがないので、ここで用を済ませておこう。
高水山の山頂までは、常福院からさらに5分ほど尾根道を登っていく。山頂付近は木が多く、残念ながら眺望はそれほど良くない。弁当を広げるなら、次の岩茸石山の山頂がオススメなので、小腹が空いていても、もう少しだけ我慢しよう。