京都府の中央部に位置する南丹市美山町は、「かやぶきの里」として知られている。知井地区の北集落には50戸の内、38棟の民家に茅葺屋根が現存、平成5(1993)年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定。年間約70万人が訪れる人気観光地で、近年は台湾などの訪日客にも人気だ。
日本の原風景が残るかやぶきの里は、ビュースポット以外にも茅葺屋根の民宿、ミュージアムやパワースポット、売り切れ必至のプリンが人気のカフェなどが点在している。町内にはジビエ料理などのご当地グルメ、ウォーキングやサイクリングコース、かやぶきの里語り部ツアーやトレッキングツアーなどのアクティビティも充実。5月には春の放水銃一斉放水やお田植え祭なども行われる。今回は、そんなかやぶきの里と美山町の魅力をたっぷり紹介したい。
62基の放水銃が一斉に放水
冬は50cmの積雪に埋もれ、900基以上の雪や竹などの灯篭が里を照らす「かやぶきの里雪灯廊」イベントや雪まつりも人気だが、4月中旬に桜が開花、4~5月にかけレンゲが里山をピンクに染め、里や森が新緑に包まれる春は一年で最も美しい季節のひとつだ。
中でも、5月は必見のイベントが満載。「お田植祭」(2017年は5月14日)は、知井八幡神社の宮司による五穀豊穣の祈願祭、菅笠姿にかすりの着物、真っ赤な神隠し姿の早乙女たちによる手植え神事が行われる。その姿が水を張った春の田に映る景色も幻想的だ。
また年に二度、春と秋に行われる放水銃の一斉放水は是非見てみたい。このイベントは2000年に民俗資料館が不審火で焼失したのをきっかけに、防火用放水銃の点検を目的として開催されるようになった。かやぶきの里にある62基の放水銃が一斉に放水する様はまさに絶景だが、そこには観光客にも文化財を火災から守る必要性を理解してほしいとの思いもある。
茅葺の中はカフェや工房、ミュージアムも
かやぶきの里は南北約500m、東西約1km、中を京の都と若狭(福井)を結ぶ鯖街道が通っている。家々は山の斜面や山裾にひな壇状に配置され、その間は生垣や塀で囲っていない。そのため開放的で、前景の水田、中景の屋敷地と家、里道と畑、後ろの森や谷が一体となって見える。四季の花々や樹齢400年のトチの巨木などの自然も豊かで、散策していて飽きない。
38棟の茅葺屋根は景観はもちろん、その内部を見ることができる資料館や民宿、カフェや米粉パンの店もある。かやぶきの里の中にある中野養鶏場の卵の直売所で、カフェとしても営業する「美卵(ミラン)」は、一番人気の濃厚な卵と牧場の原乳を使った手作りプリンのほか、美山牛乳ジェラートやシフォンケーキ、スムージーや珈琲などが楽しめる。
ちいさな藍美術館(入場料300円)は昭和56(1981)年、美山に移住した藍作家・新道弘之氏が工房を開き、作品のほか、世界中から集めた貴重な藍製品を展示している。展示スペースでは茅葺の屋根裏を見ることができる。ミュージアムショップ(入場無料)ではスタイリッシュな藍のブックカバーなど、藍製品も販売されている。
かやぶきの里はパワースポット巡りも楽しい。延久3(1071)年創建の知井八幡神社は小高い丘の上にあり、かやぶきの里を俯瞰して眺められるビュースポットでもある。
江戸中期建築の本殿は美麗で、境内には夫婦杉の「結の杉」や鯉が泳ぐ池もある。鎌倉神社に上がれば、更に上方から府道のそばを流れる清流美山川(由良川)やその奥に折り重なる山々までも一望できる。創建は14世紀中頃の南北朝時代という普明寺では御朱印もいただける
美山では、かやぶきの里(伝建地区)の外にも楽しみは多い。続いては、そんな自然豊かな美山そのものの楽しみ方を紹介しよう。