ここでパワーメーターについて少し説明しておこう。パワーメーターとは、自転車の動力計のことである。パワーメーターを自転車に取り付け、パワーメーターのセンサーを通じて、どれだけの力で自転車をこいでいるのかを計測できる機材だ。計測値(ワット)はサイクルコンピュータで確認する。

パワーメーターを使うことで、走行時のペース配分(踏みすぎて疲れないようにする)に役立てたり、走行後も、過去のデータと比較してパフォーマンスをチェックしたりすることができる。ほかにも、トレーニングの強度、疲労なども確認でき、レースに向けてのコンディショニングにも使われたりしている。いわば、競技志向の高い人ほど欠かせない機材だ。

精密機器であるがゆえ、価格も高い。今では精度にこだわらなければ、2万円も出さずに買えるものもあるが、それなりのものを買おうとすれば、10万円から30万円程度かかり、高価な機材といえる。

生きるパイオニアの知見

自転車を趣味にしている藤田氏の「本当に欲しいものを!」という気持ちはわかるが、それでも自転車の機材は、パイオニアの本業とは遠い。それでも開発が進んだのは、研究開発部のメンバーや上長も自転車が趣味で、提案内容が理解されやすかったこともあったようだが、根本的には、本業のバックボーンが生かせたからだ。

「パイオニアの技術、試験設備がなければ、スピーディーに事業化は進まなかったと思います」。こう開発過程を振り返るのは碓井氏だ。

開発したセンサーは、自転車のクランク部分に取り付けられ、微細なひずみから力を検出する。そこには、レーザーディスクで培った微細信号検出技術が使われているという。センサーで検出したひずみは、無線でサイクルコンピュータに送られるが、その信号伝送も、オーディオ機器で培った技術だ。

自転車機材に活用されたパイオニアの技術(提供:パイオニア)

そして、何より"壊れない"製品に仕上げるための試験設備だ。振動、衝撃、防水、防塵、耐候性能をテストする設備があり、まさに開発環境は整っていたわけである。