両親の涙は「強み」
――スカウトされた時のことは覚えていますか。
すごく鮮明に覚えています。学校帰りに、友だちと帰っていたんですけど、友だちと別れて一人で歩いている時に、急に話し掛けられたんです。
当時の私には別の夢がありました。おじの結婚式がきっかけで憧れたウェディングプランナー。だからこそ、芸能のお仕事は「やりたくない」。福岡から離れるつもりもなかったので、当時は「絶対にやらない」と心に決めていました。
――どのように心変わりしたんですか?
1年ぐらい「やらない」気持ちは変わらなかったのですが、ドラマの現場を見学させていただいたのが、大きかったです。お遊戯会で何となく感じていた演じることの楽しさ。撮影現場を見て、自分の中で変わるものがあって。親に相談して、上京を決めました。
――先日、松風理咲さんも同じことをおっしゃっていました(2017年3月31日掲載:"ポスト堀北真希"の可能性探る5000字 - 松風理咲、ドラマ『まっしろ』現場見学で決断した「女優一本」の道)。現場で何を感じたんですか?
私が見学させていただいたのは、桐谷美玲さんの『あぽやん ~走る国際空港~』(TBS系・13年)というドラマです。撮影現場の空港では、本当にたくさんのスタッフさんが動いていました。そして、あの独特な緊張感。そこでお芝居をされるキャストの方々。テレビを見ているだけでは感じられない空気を知ることができ、衝撃を受けました。
――決断した時、親御さんはどんな反応だったのでしょうか?
やる前から「嫌だ」と言って、結局「やればよかった」と後悔することが過去にもいくつかあったので、母は「一回はやってみなさい」と勧めてくれていました。それでもやりたくないんだったら、やらなくていいと。私の気持ちをすごく尊重してくれて、だからやると決めた時も、「よかった」とかそういう感じではなくて、「うん、わかった」と自然な感じで受け止めてくれて、すごく安心したというか。「まずはやってみよう」と前向きな気持ちになることができました。
――初舞台はもちろん招待したんですよね?
はい。泣いてました(笑)。作品もすごく感動するものだったので、そのせいもあると思うんですけど。楽屋に来ても泣いてました。
――舞台上からどの席に座っているのか分かるものなんですか?
すぐに分かります。あまり見ないようにしていました。
――親のうれし涙はなかなか見られないものだと思います。どんな気持ちでしたか。
「やる」と決める時もそうだったんですけど……親孝行できることって、なかなかないんじゃないかと。ここまで育ててもらって、親孝行したいという気持ちがあったので、この仕事を頑張りたいと思えたんです。だからこそ、その素の涙を見た時に……自分はまだまだだと思いますけど、熱いものがちゃんと届いたんだと思って、すごくうれしかったです。
――故郷を離れることは大変なことだと思いますが、そういう涙を見たからこそ踏ん張れる。
そうですね。本当に両親の涙は、私にとっての「強み」だと思います。上京して3年が経ちました。最初の1年は本当に帰りたくて帰りたくて。お正月帰省した時に「このまま残ったらどうなるんだろう」とか、そんなことが頭をよぎるんです。途中で転校したので、最初の頃は学校にも全然慣れなくて、泣きそうになりながら授業を受けている日もありました。そんな日の帰り、このまま空港に行ってキャンセル待ちしたら何時に着くのかな……と想像することも。でも、踏みとどまりました。頑張んなきゃって。本当にあの時、踏みとどまって良かったと今、思います。
憧れの黒木メイサとの初対面
――私も地方出身なので、その気持ちすごく分かります。昨年3月、高校生活を終える時も特別な思いがあったんじゃないですか?
友だちにも恵まれて、みんな本当に仲良くしてくれて、舞台も毎回来てくれて。ある子は、学校の私と舞台の私が違いすぎて、「こんなにかっこいいなんて」と泣いてくれました。
――そうやって一人ひとりの心の中に何かを残せるのは、この仕事の醍醐味ですね。
そうですね、すごくうれしいですし、やりがいだと思います。
――これまでで事務所の先輩との思い出は?
黒木メイサさんの巴御前は本当にすばらしかったです(13年舞台『巴御前女武者伝説』)。楽屋あいさつさせていただいたんですが、言葉が出なかったです。かっこよすぎて(笑)。「おつかれさまです」もたどたどしくなっちゃって……本当にかっこよかったんです! もともとすごく憧れていたんですけど、その時はすごく緊張してしゃべれなくなっちゃって……何を言ったか覚えていません。そんな私にも、すごく優しくて接してくださいました。
――当時の興奮が伝わりました(笑)。ありがとうございます。さて、そろそろお時間です。最後に今後の目標をお聞かせ下さい。
5月の舞台『白蛇伝』に続き、7月には西田シャトナーさん演出の『遠い夏のゴッホ』、8月には『煉獄に笑う』に出演させていただきます。観て下さるお客さまの心に残る舞台をお届けできるようにがんばりたいです。そして、今後は舞台はもちろんですが、映像のお仕事にもチャレンジできるようにがんばります。
■プロフィール
山下聖菜(やました・せな)
1998年12月16日生まれ。福岡県出身。身長162センチ。A型。地元・福岡でスカウトされ、約2年のレッスン期間を経て2015年、演出家・西田大輔氏が手掛ける舞台「From Chester Copperpot」の『NEW WORLD』主演で本格デビュー。以降も、『サバンナの掟』主演(16)、『SAFARING THE NIGHT/サファリング・ザ・ナイト』ヒロイン(17)に出演。今後は『幻想奇譚 白蛇伝』(紀伊國屋サザンシアター 17年5月25日~30日)、『遠い夏のゴッホ』(天王洲銀河劇場17年7月14日~23日/森ノ宮ピロティホール17年7月29日~30日)、『煉獄に笑う』(サンシャイン劇場 17年8月24日~9月3日/森ノ宮ピロティホール 17年9月9日~10日)が控えている。