谷根千散策は横見も忘れずに!
この界隈には坂道が多い。「さんさき坂」にはヨーロッパの小物を集めた雑貨屋「Biscuit」や、レトロなカフェ「乱歩」があり、小学校には干支の時計台が設置してある。道すがらの横見も楽しみたい。
短い距離だが、その風情を体感してみたいのが「観音寺築地塀(かんのんじついじべい)」だ。これは、江戸時代に建てられた塀である。約37mにわたってまっすぐに続いている。この塀の横を当時の人々も歩いていたに違いない。
デートで歩きたい墓地&ハイカラな昭和家屋
谷中霊園は、墓地ながら桜の名所としても知られている。墓地に挟まれた幅広い通りに続く桜並木は、花の咲く季節のみならず新緑の頃も美しい。切り株やベンチに座って一息ついてみれば、知らずと時間が過ぎているかもしれない。墓地には第15代将軍の徳川慶喜や画家の横山大観などの著名人も多く眠っている。
谷中霊園を通り越した辺りには、昭和の建築を利用した新しいスタイルのスポットがいくつもある。そのひとつが「上野桜木あたり」だ。ここにある3つの日本家屋は昭和13(1938)年から建っているもの。それらが持つ日本らしさを残しつつ、2015年より店舗等としてオープンした。
ここにあるのは、お昼でもビールが飲める「谷中ビアホール」、パン屋の「Kayaba Bakery」、塩とオリーブの「おしおりーぶ」。パンとビールを買い、3軒の間にある路地のベンチに腰かけて一杯……、なんていう素敵な昼下がりを過ごしてみてはいかがだろうか。
「Kayaba Bakery」の素朴で個性的なパン。じゃがいも入りの「じゃがパン(左)」(200円) はもっちりとした食感の塩味。「シナモンロール(右)」(240円/2切れ入り) は2人で分け合いたい |
ここからしばらく歩いて根津神社へ向かうのだが、それまでの道のりにも楽しい見どころがある。銭湯を改装したギャラリー「SCAI THE BATHHOUSE」、レトロなカフェとして有名な「カヤバ珈琲」に、「下町風俗資料館」などだ。ところどころに現れる古いお寺にふらりと入ってみるのも面白い。
根津神社は4~5月が見頃!
1900年以上の歴史があると言われる根津神社は、これからがいい季節だ。2017年は4月8日~5月5日に開催される「文京つつじまつり」の間だけ、境内のつつじ苑が開苑される(入苑寄進料200円)。赤く連なる鳥居とつつじのコントラストは見事だ。
根津と言えば、「根津のたいやき」が有名だ。しかしこの日、のんびりと散策をしていたために、すでに売り切れてしまっていた。たいやきを逃さないためには、根津から散策を始めた方がいいかもしれない。
その代わりと言っては何だが、「甘味処 芋甚(いもじん)」でお土産用に販売されているあんみつ(370円)を購入。自家製アイスを使用したアイスモナカ(120円)も人気だそうだ。
そのほかにも根津には、「おばけのだんだん」と呼ばれる細く薄暗い階段や、夏目漱石が住んでいた家の跡地があると聞き、歩き回ってみた。おばけのだんだんと思われる階段はそんなに薄暗くもなく、夏目漱石の家は移築されていて猫の置物があるだけなのだが、おそらくは子どもたちが「おばけが出るよ! 」と言って遊ぶ路地や、文豪に愛されてきた街なのだろう。
古い家屋や昭和風情がこれほど多く残る地域は珍しいかもしれない。その中をメンチカツやビール片手にそぞろ歩くのは、ぜいたくな休日の過ごし方と言えるだろう。「日本にいて、かつ大人で良かった」とつぶやきつつ、晴れの日の散策を楽しんでみてはいかがだろうか。
※価格は全て税込
筆者プロフィール: 木口 マリ
執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。旅に出る度になぜかいろいろな国の友人が増え、街を歩けばお年寄りが寄ってくる体質を持つ。現在は旅・街・いきものを中心として活動。自身のがん治療体験を時にマジメに、時にユーモラスに綴ったブログ「ハッピーな療養生活のススメ」も絶賛公開中。