グローバルの戦略が日本市場にもマッチ

だがエイスースが人気を獲得した理由はもう1つあると考えられる。エイスース全体のスマートフォン戦略が、日本市場の動向と丁度マッチしていたことも、日本で成功を収めた大きな要因だといえる。

エイスースはスマートフォン市場参入当初、性能はあまり高くないながらも端末の質感は高く、リーズナブルな端末の提供に力を入れてきた。ZenFone 5も性能は当時のミドルクラス相当であり、ボディも金属ではなく樹脂製であるなど低コスト化に苦心する要素が多く見られたが、一方で日常的な利用には十分な性能を備えており、質感を高める加工を施すなどして、価格以上の価値を打ち出す工夫が多くなされていたのだ。

そしてZenFone 5が登場した2014年頃、日本ではSIMフリースマートフォンが「格安」に利用できるMVNOの通信サービスとセットで利用するものとして注目されたこともあり、価格の安さが強く求められていた。そうした市場環境の中、ZenFone 5は比較的低価格ながら高い完成度を誇っていたことから、高い評価を獲得できたといえる。

だがここ最近、通信サービスとSIMフリースマートフォンをセットで販売し、大手キャリアのように2年間の分割払いで購入できる仕組みを導入するMVNOが増え、高額なスマートフォンを購入しやすくなってきた。そのため多少高額であっても、高性能・高機能な端末を選ぶユーザーが増えてきており、ファーウェイの「P9」のように比較的高額なSIMフリースマートフォンがヒットするケースも出てきている。

一方でエイスースもスマートフォン事業の好調を受ける形で、従来のミドル・ローエンドに注力する戦略から、昨年にはラインアップを広げ、ハイエンドモデルも提供するなど新しい戦略を取るようになってきた。実際、昨年9月に日本で発表された「ZenFone 3」シリーズは、自ら「性能怪獣」と呼ぶほど高い性能を誇るハイエンドモデル「ZenFone 3 Deluxe」をラインアップに揃えている。

そうした日本市場の変化と、エイスースの戦略変化がマッチして起きたのが、日本でZenFone 3 Deluxeが一時受注を停止するほどの人気となったことだ。ZenFone 3 Deluxeは最も高いモデルでは8万円以上と、SIMフリースマートフォンではiPhoneに匹敵する高額な値付けがなされていたのだが、それでも高い性能を求めるユーザーの強い関心を集めて人気を獲得。市場におけるエイスースの存在感を一層高める契機となっているのだ。

「性能怪獣」と呼ばれたZenFone 3 Deluxe。特に5.7インチモデルは有機ELディスプレイに高性能CPU、そして2300万画素のカメラを搭載するなど高い性能を誇る

日本市場に向けた積極的なローカライズと、日本市場にマッチしたグローバル戦略。この2つが日本におけるASUSの人気要因となっているといえそうだ。それだけに、ASUSがSIMフリー市場でトップシェアを確固なものにし、なおかつ一層利用者を増やすためには、グローバルの戦略と歩調を合わせながらも、いかに日本市場の動向に合わせ続けられるかが求められる。