――福澤監督とのお仕事はこの作品(前作含め)が初めてだったんですか?

そうですね、初めてでした。最後には良いスクラムが組めたと思います。

――福澤監督の演出はいかがでしたか?

熱さだったり、もっとほしいんだろうなと感じるときがありましたよ(笑)

――熱い男たちの物語なので、現場の士気も高かったんじゃないかと思います。

この作品の中で生きている人たちは、"ないものを作ろう"としている人間たちですから、演技も自然とヒートアップしていましたね。時代背景も、普通の話し方じゃなくて、5割増のパワーと声量で話さないと相手に届かない時代というか。自分たちの生き方をどうしても曲げられない人たちがいる時代なんです。だからたとえお芝居であっても、相手に伝えようと思うと一つ一つのセリフが必要以上に熱を帯びていって。製造部門と販売部門がぶつかるシーンでは、えなり(かずき)くんは当たり前のようにおいおい泣いているし…。若い方は「そんなのカメラには映らないよ」とおっしゃるかもしれないけれど、映らないものが映る時もある。理屈じゃないところで、僕らは役者をやっているんです。

――佐藤さんの自然な感情の高ぶりが生かされたシーンも多いのでは?

名古屋の公会堂の撮影で、佐一郎が1,400人のエキストラの前で話すシーンは印象に残っています。1,400人の心に声を届かせるために佐一郎はどうするかと考えて。まずは舞台上に作ってあった壇を取り外してもらい、それからいろいろ動いてみて、あそこに動くかもしれない、幕に描いてあるアイチ自動車のロゴを使うかもしれないなどと、スタッフにいろいろバリエーションを見せてから撮影に入りました。たとえお芝居であっても発信者として、エキストラの方を飽きさせず、ちゃんと話を聞いてくれるように話したかったんです。

――菅野美穂さんも新キャストとして登場されます。物語の中で前に出ているのは男性ですが、それを支える存在として、“女性”の姿も大切に描かれているように思います。

男が表に出て、女は一歩下がるというのは当時としては当たり前なんだけれど、女性が男たちを支えたからこそ偉業を成し遂げられたんだというのは、この作品の中で見せないといけない部分だと思います。今作で言うと、菅野さん演じるキヨがいなければ、内野くん演じる山崎という男はあそこまで頑張れなかったし、意地を通せなかったでしょうから。

――最後に、佐藤さんが思う愛知佐一郎のかっこいいところってどんなところですか?

無理だと思うことでも挑戦してみること。そしてそれを続けるということ。戦前の時代に、国産車が切り開く日本の未来を信じることができていたこと自体が、本当に素晴らしいですよね。「日本映画なんてどうせハリウッドにかなわないんだから」なんて批判する人々がいる中で、一生懸命映画を作り続けるような人間。始めの一歩がなけりゃ、その次は誰もできないわけですから。

――そんな佐一郎たちの熱い思いが、再び感動を呼びそうですね。

やたらうるさいドラマです。声のボリュームが(笑)。たくさんの方に見ていただきたいと思います。

■プロフィール
佐藤浩市
1960年12月10日、東京都出身。1980年にドラマ『続・続事件/月の景色』(NHK)でデビュー。 翌年出演した映画『青春の門』でブルーリボン賞新人賞を受賞する。その後、数々の映画やドラマに出演し、『忠臣蔵外伝/四谷怪談』(94)、『64-ロクヨン-前編/後編』(16)で 日本アカデミー賞最優秀主演男優賞。2017年6月に公開予定の最新映画『花戦さ』では、 千利休を演じている。

撮影:宮川朋久 (C)TBS