現実との境界線はどうなるのか
新規アイドルとして展開する予定の「U」だが、アンドロイド自体にはもう一つ、実在の人物の模倣という側面もある。たとえば石黒教授の過去の業績の中には落語家の故・三代目桂米朝師匠を模したアンドロイド「落語アンドロイド」も存在している。米朝師匠は2年前に亡くなったが、今も生前の米朝師匠から記録した高座を、アンドロイドを通じて楽しむことができる。米朝師匠はアンドロイドというフォーマットにアーカイブ(保存)されたことになる。つまり、ANDROIDOLには、アイドルの旬の姿を記録・保存し、将来に再現するためのアーカイブ的な側面を期待できるのだ。
また、人工知能の発展と、それに伴って音声認識や会話、音声合成の技術も飛躍的に向上しているため、録音した歌だけでなく、かつてのアイドル自身の声を使って新しい歌や会話もできるようになるだろう。ハリウッドでもスターの姿をフルCG化し、合成音声と組み合わせることで役者が死んでもその姿を再び映画で利用できるような計画があるという。そうなればもはやアイドルは実在の人間か、そのアーカイブなのか、100%人工的なものなのか、その境界線は非常に曖昧になっていき、やがてはオリジナル自体が存在しない、純粋なアンドロイドとの区別はなくなっていくだろう。
かつて「アンドロイドや人工知能がアイドルになる」というアイデアは、その実現性の難しさや発想の意外性も込めて、アニメやSF作品の中のものだった。しかし今やそうしたアイデアが現実のものとなる時代が訪れている。ANDROIDOLは空想と現実の境界線を破壊する可能性をもたらす嚆矢となるかもしれない。