せんべい三昧「立花屋」の手焼きせんべい

参道には、団子屋同様、せんべい屋もたくさんある。多くは、巨大な金魚鉢のような瓶に入れて販売されているようだ。「これと、これと……」と注文すると、瓶の蓋を開けてせんべいを取り出してくれる。それぞれ60円~100円前後なので、いろんな味を試してみてもいいだろう。

左から、ごま、中堅焼き醤油むじ、ザラメ、みそ(各60~110円)。江戸川の土手に座ってパリッとかじるのもよさそう

漬物屋「い志い」で、なぜか甘酒

取材時は、青空ながらまだ寒さの厳しい2月。そんな時に見る「甘酒」の2文字には、あらがえない魔力がある。たとえそれが、漬物屋に見つけた文字であっても、だ。いや、麹を使う漬物屋だからこそ、甘酒はあるのかもしれない。ともかく、無数に並べられた漬物を眺めつつ、温かい純日本のホットドリンクでホッと一息ついてみてはいかがだろうか。

麹の入った甘酒(200円) 店頭では漬物の試食も楽しめる

包丁でトントン「松屋の飴」

マップに「飴菓子」と書かれていてもオシャレな飴細工ではなく、実に素朴なものがこの界隈の飴らしい。職人が、トントンと小気味のいい音をたてて長い飴を切っていた。コロコロと一口大に転がっていく飴はかわいい。様々な味の飴が並んでいる中でも、喉にいい「セキトメ飴」と、少しソフトな「みそ飴」を選んでみた。そのほか、「あんこ飴」「きな粉飴」もオススメだそうだ。

紙の包装がいかにも老舗

生姜・よもぎ・桔梗・弟切草などが入った「セキトメ飴」は、舐めて喉に効くように硬い飴。みそ飴は少し柔らかい。元祖キャラメルというところだろうか(各300円)

見どころ満載な帝釈天

参道の先にどっしりと門を構えているのが「帝釈天」だ。またの名を"彫刻寺"というだけあって、細部にわたって見事な彫刻が施されている。お参りするだけでなく、柱や壁、土台にまで目を向けてみてもらいたい。

杉浦さんの話では、帝釈堂の正面の戸には、それぞれ十二支がひとつずつ彫られているそうだ。つい、自分の干支を探してみたくなる。文化財として保護されている彫刻ギャラリーと庭園は400円で拝観が可能。靴を脱いでの拝観となり、冬場はかなり冷えるため厚手の靴下を用意したい。

帝釈天二天門。荘厳である

二天門の隣にある南大門には、いくつかハートに似た模様が彫られている。「この穴にラブレターを3回通すと恋が実る」という噂が流れたことがあり、実際にやりにきた人もたくさんいたという。手紙で告白していた時代の話だろうから、今はスマートフォンを通すのだろうか

寅さん&山田洋次監督の2大ミュージアムと山本亭へ

ここまで来たのなら、帝釈天から江戸川へ抜けて「寅さん記念館」「山田洋次ミュージアム」「山本亭」を訪れてみたい。この3館の共通入場券は550円と、大変お手ごろな価格である。

江戸川の土手に造られた柴又公園に突如現れた「寅さん記念館」ののぼり

寅さん記念館や山田洋次ミュージアムには、映画セットのような部屋や35mmフィルムの映写やジオラマなどがあり、"古き良き映画の世界"のような郷愁を感じられるかもしれない。山本亭は大正から昭和初期の建築で、隣接した庭園は米国の日本庭園専門誌で第3位となったこともあるという。館内の見学だけをすることもできるが、庭園を眺めながら抹茶や和菓子をいただいてみるのもオツである。

山田洋次監督直筆のフィルム型の石碑(帝釈天参道入り口付近に設置されている)

柴又の夜は早い。17時になると、ほとんどの店が閉まってしまう。しかしながら薄暗い通りを照らすように、店の軒先きや門に灯りがつく。昼の賑やかさとは違った装いを見せてくれるだろう。

柴又の夕暮れ

実のところ、筆者はこれまで寅さんにさほど興味を持っておらず、映画をきちんと見たこともない。しかし、人情や風情に浸りきれるような楽しさが柴又にはあった。次の週末には、食べて歩いて、早めに家路につく柴又のプチ旅をしてみてはいかがだろうか。

丁寧に街案内をしてくれた、かつしか語り隊の杉浦さん

東京に残る、数少ない丸型のポスト。「以前はここから投函すると、特別な消印が押されたらしいよ」と、杉浦さんは語る

※価格は全て税込

筆者プロフィール: 木口 マリ

執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。旅に出る度になぜかいろいろな国の友人が増え、街を歩けばお年寄りが寄ってくる体質を持つ。現在は旅・街・いきものを中心として活動。自身のがん治療体験を時にマジメに、時にユーモラスに綴ったブログ「ハッピーな療養生活のススメ」も絶賛公開中。