柴又と言えば寅さん、寅さんと言えば柴又というほどに、イメージの定着している葛飾区・柴又。しかしここは、イメージという言葉だけでは語れないほどに、まさに戦後昭和の風情で出来上がっているような街である。その中を散策しつつ、昔ながらの食べ歩きをしてみた。
カタカタカタ……という映写機の音とともに風景が流れる、そんな街並みはどこかと言われたら、「柴又」と答えるだろう。浅草と少し似た風情があるが、それよりも素朴で、人の往来ものんびりとしているようだ。しかし、見どころ・食べどころは満載。ほんの400m程度の範囲にお楽しみがギュギュっと凝縮されている。この距離で日がな一日面白おかしく過ごせてしまう街も、東京にはなかなかないかもしれない。
駅で寅さんがお出迎え!
柴又駅へは、京成金町線というローカルな電車を利用する。浅草からは1度の乗り継ぎで、乗車時間16分程度の距離だ。この駅には「フーテンの寅さん像」があることで知られているが、探すまでもなく改札出口に待ち受けている。銅像なのに奇妙なほどリアルなこの寅さん、そのサイズは165.7cm。実寸大である。
駅前には観光案内所がある。そこでマップを手に入れるといいだろう。筆者も立ち寄ろうとしたものの、「かつしか語り隊」の方に遭遇したため、案内をお願いすることにした。これはシニアボランティアで構成されている街案内の隊である。毎週土・日曜日のみ行っていて、ただ歩いているだけでは気付かないような面白ネタも教えてくれる。散策の折にはお願いしてみてもいいだろう(参加者ひとりにつき300円)。
かつしか語り隊・杉浦勝利さん(80)によると「寅さん像の左足に触ると運気が上がる」とのこと。その言葉を傍らで聞いていた人々は、みんなで一斉に足を触り始めた。どうりで左足がつるつるだ。ちなみに右足に触っても特に何もないらしい |
柴又の見どころは、柴又駅の寅さん像から帝釈天(柴又帝釈天題経寺)へ続く参道、隣接した柴又公園からのぞむ江戸川、その付近にある「寅さん記念館」と「山田洋次ミュージアム」、さらには日本庭園のある古民家喫茶「山本亭」といったところだろう。この中での食べ歩きポイントは帝釈天参道だ。
職人技が楽しい! 帝釈天参道の食べ歩き
帝釈天参道は、映画のセットではないかと思うほどに古い街並みが続いている。建物の屋根は低く重みがあって、いつ寅さんが出てきてもおかしくないようだ。映画『男はつらいよ』で登場した場所や、役者が毎回利用していた席が永久予約席として残されている店など、ここにはたくさんの"ゆかり"がある。街の人にも愛されている参道なのだろう。
参道には、草団子屋、飴屋、せんべい屋、漬物屋、川魚の料理屋、甘味処、民芸品の店など、戦後の復興期はこんな感じだったろうかと思わせるような老舗が並ぶ。店先でお菓子を作る職人の様子が見られるのも楽しい。
寅さんの実家「とらや」で草団子
とらやは、寅さんの実家として第4作目まで撮影に使用されていた店である。ここでは、もちろん草団子を食べ歩きたいのだが、一風変わった「焼き草だんご」も見逃せない。串に通した草団子を焼き、醤油とのりをまぶしたものである。焼き草だんごは土・日曜日・祭日のみの販売で、7・8月は販売されていないため、狙いを定めて訪れたい。
濃厚な1粒なら「吉野家」の草団子
団子はだいたい串に刺さっているものだが、吉野家では1粒ずつ販売している。職人が深緑色の団子の塊を握ってムニュっと丸い団子が出来上がっていく様子が楽しい。何も言わずに注文すると、あんこが乗っかったものが出される。お好みで黒蜜きな粉をお願いすることもできるそうだ。ここの団子は見るからに、とらやのものとは色が違う。よもぎが非常に濃厚なのだ。草団子屋はこのほかにもたくさんあるため、食べ比べてみても面白いかもしれない。
もちろん、参堂グルメは団子のみならず。せんべい屋もたくさんある。今度はそんなせんべい屋や寒い季節に欠かせないあのホットドリンクなどを楽しみながら、柴又の顔と言える「帝釈天(たいしゃくてん)」を巡ってみよう。