EVの普及を阻む日本特有の課題

こうしたEVの躍進の前に、日本特有の課題が待ち構えている。

三菱自「i-MiEV」と日産リーフが発売されて間もなくのころ、国内の多くのメディアは走行距離の短さと、急速充電施設が足りないという課題を大きく取り上げた。だが、経済産業省の1,005億円に及ぶ予算と、トヨタ自動車、日産、本田技研工業、三菱自の4社協議会による資金支援によって、現在、国内には7,000カ所近い急速充電器が整備されている。200Vの普通充電も加えると2万カ所を超える。それは、約3万件というガソリンスタンドの数に迫る勢いだ。したがって、現状のEVの走行距離でも何ら不安はなく、どこへでも遠出することができるようになっている。

三菱自「i-MiEV」(左側)と日産「リーフ」

一方で、これまでメディアがほとんど伝えてこなかった、より重大な課題が残されてもいる。それは、家庭で充電を行う200Vの普通充電についてである。

世間が心配した遠出の際の急速充電設備の整備は、必ずしもEVの所有者全てに日々必要なものではない。一部を除き、週末や休暇などに、普段とは違って遠くまでEVで出かけようとしたとき、はじめて問題になることだ。

一方、自宅で行う200Vでの普通充電は、必ずしも毎日ではないとしても日常的に必要な充電であり、これが、集合住宅ではなかなか実現できない現状がある。

集合住宅でEVを持つのは至難の業?

集合住宅の場合、自宅以外のエレベーターや駐車場など、住民全員が利用の機会を持つ設備や場所の管理・運営については、住民代表が交代で担う管理組合によって運営される場合が多い。そして、この公共部分の駐車場にEV用の充電設備を設置しようとする際に、管理組合のなかで反対者が出ると、コンセントを設けられないことになってしまうのである。

反対の理由は、「自分に関係ないから」というのが大勢を占めるようだ。たとえEVを購入する人が自費でコンセントを設置したいと申し出ても、上記の理由で却下されてしまう例が実際に起きている。

戸建て住宅に住む人はまったく問題ないのだが、集合住宅に住む人にはEVの選択肢を外されてしまうことになる。結果、EV販売の実績は9割が戸建てに住む人で、集合住宅に住む人のEV購入実績は1割に満たないといった状況である。

もちろん、近隣に急速充電設備があればそこで充電することはできる。だが、EVを使う最大の利点の1つは、エンジン車のようにガソリンスタンドへ立ち寄る必要がないことであり、急速充電設備に立ち寄って30分近くも時間を潰さなければならないとなると、面倒だと感じる人もいるだろう。

自宅での充電は、そのような無駄な時間、つまり、例えガソリンスタンドなら5分で給油を終えられるとしても、スタンドまでの往復と、その給油時間という無駄をなくすことができるのが、大きな特徴である。

この問題はPHVでも起こる。PHVは自宅で充電し、1日の利用距離が数十キロほどであれば、ガソリンスタンドへ行かずに、日々電気だけでクルマを走らせられるところに最大の利点がある。だが、集合住宅に住む人がPHVを購入しても、結局、ガソリンスタンドで給油した燃料で走るしかなくなってしまうことになる。それではPHVを購入する意味は薄れ、より安価な普通のハイブリッド車(HV)で十分に事足りる。

この問題について、まもなく「プリウスPHV」を発売するトヨタも、まだ集合住宅で200Vの普通充電ができない多くの人が居ることに気づいていないようだ。いずれにしても、この問題を解決しなければ日本でEVやPHVが普及するのは難しい。

プリウスPHVのCONCEPT MODELLISTAバージョン

いかにすれば集合住宅の管理組合の人たちに理解してもらい、充電コンセントの設置に合意してもらえるか。ここを解決しないと日本は、せっかくEVの発売や、急速充電器の整備で世界に先んじたにもかかわらず、どれほど優れたEVやPHVがこの先登場しようとも、普及においては後進国となってしまいかねないのである。