Appleは2016年10月、新型MacBook Proを発表したイベントで、1つ、重要なアプリを披露している。日本向けに提供されていないため、また日本で試せることがないため、あまり話題になっていないように思われるが、そのアプリは「TV」だ。
Appleは「Apple TV」という、テレビに接続するセットトップボックスをラインアップしている。Apple TVは、iTunesで配信される映画やドラマ、音楽をテレビで楽しむための製品として出発したが、2015年9月に発表された第4世代モデルで、iPhoneやiPadと同じように「アプリ」を追加することができるようになった。
TVアプリは、どちらかというと、アプリと言うよりはテレビ視聴の体験に関与するアプリ、と位置づけることができる。まずは、我々のリビングルームとアプリの関係を考えてみよう。
iOS開発者は、1つのアプリやブランドを、iPhone、iPad、Apple Watchに加えてApple TVにも配信することができるようになる。この点は非常に大きなメリットである一方で、まだ我々の生活において、「テレビでアプリを使う」という体験が確立されていない点が問題となっている。
果たして、Apple TVに新しいアプリをこまめにチェックしながら追加するか、Apple Remoteで操作してそのアプリを毎日起動するか。こうした疑問に対して、Amazon Echoの好調ぶりが答えを出しているように感じる。
Amazon Echoは円筒状の据え置き型デバイスだ。ストリーミングサービス経由の音楽再生をサポートするが、全方位を向いたマイクはリビングルームのどこからでも声を拾い、質問や命令に応えてくれる。
EchoにはAlexaという人工知能が利用でき、デバイスやアプリのデベロッパーはAlexa向けの「スキル」を開発できる。ラスベガスで開催された家電展示会「CES 2017」の時点で、既にスキルの数は7,000を超えた。黎明期のApp StoreがiPhoneの可能性を広げていったように、Amazon Echoで行えることは開発者によって増え続けているのだ。スキルはタイマー設定や単位換算、天気予報の読み上げなどから利用されはじめているが、開発者はスマートホームデバイスやソーシャルメディアとの連携など、自社製品やサービスとの接続を行える。
リビングルームで機械に話しかけるという行為は我々の生活の中にまだ定着していないが、テレビを見ながらApple TVのリモコンでアプリを起動して情報を見る、という動作と比べて、どちらの方がシンプルで定着しやすそうか。そして未来っぽいか、という比較をすると、やはりAmazon Echoの方が有利だと筆者は考える。
AppleにはSiriがある。しかしSiriに対して開発者が機能や役割を与えられるようになったのは2016年秋からの話で、しかも通話・メッセージ・送金・タクシー配車・エクササイズ・写真検索といった6つの領域に限られる。Siriへ役割が与えられるアプリのカテゴリは、2017年のWWDCで増えることは間違いない。ただ、Apple Remoteが手元にあり、テレビがONになっており、マイクボタンを押さなければ命令を聞いてくれないApple TVとSiriの組み合わせは、再考しなければならない。
ちなみに、Siriには、ボタン操作なしで命令を与えられる「Hey Siri」機能がある。iPhone、iPad、Apple Watchで利用可能で、筆者はタイマー設定をApple Watchで行う際に多用している。すでにSiri対応デバイスが多数ある中、例えば家庭内で「Siriネットワーク」のようなものを組んで、どのデバイスからでも他のデバイスの操作が可能になる仕組みの整備も、合わせて必要ではないか。