iPhone 7はある意味でAppleにとっての大きな試金石だった。日本的には「FeliCa搭載とApple Pay対応」という大トピックがあったが、海外的には「Plusでのデュアルレンズ搭載とイヤフォンジャックの廃止」という話題が中心だった。一方で、筐体デザインはiPhone 6/6sの系列をほぼそのまま踏襲しており、遠目から新旧モデルを区別するのは難しい。つまり「斬新さのないiPhoneでどこまで売れるのか」ということが大きな関心となっていた。Wall Street JournalはiPhone 7が発表される少し前の2016年6月に「2016年に出るiPhoneは大きな変更がなく、2017年に大幅なモデルチェンジが行われる」と報じていたが、これを信じてかつ実際の製品を見て判断した既存ユーザーは2016年は買い控え、2017年での買い換えを検討しているかもしれない。逆に、そうした情報に関係なくiPhone 7が例年通り売れたのであれば、ユーザーはデザイン刷新のないiPhoneであっても順当に買い換えていることを示している。筆者の結論からいえば、iPhone 7に関しては後者の傾向となったわけで、デザイン刷新がなくとも(プロセッサ強化などの)順当なアップグレードであればユーザーは引き続き買い換えているということになる。
以上を踏まえたうえでの2017年に発売が見込まれる次期iPhoneについて少し情報を整理したい。昨年2016年初頭に「これから3年間でiPhoneに起こることを大胆予想」のタイトルで筆者の独自情報源や各種情報を整理したうえでの予測記事を公開したが、ここでは「2017年以降のモデルでは有機ELディスプレイ(OLED)が採用されてデザインに大幅な変更が加えられる」という情報を紹介している。OLEDモデルが登場するのはすでに既定路線と業界では考えられており、サプライチェーン筋では半ば公然の事実となっている。問題は「投入タイミング」と「実際にどのような製品が出てくるのか」という2点で、これに関しては多少意見が割れている。噂を含め、現時点で流布されている情報を箇条書きすると次のようになる。
- 既存モデル(4.7インチ、5.5インチ)は継続の見込み、OLEDモデル(5.8インチ)を新規追加
- OLEDモデルは"プレミアム中のプレミアム"として最上位モデルになる
- OLED採用によりデザイン自由度が上がるため、「曲面ディスプレイ」「ベゼルレスデザイン(ホームボタン廃止等)」「さらなる薄型化」といった大幅なデザイン刷新が行われる
- ただし現時点では小型OLEDパネルを安定供給できるベンダーがSamsungしかなく、当面は1社供給体制となる。LGなどの参加は2018年以降に
- AppleとしてはOLEDモデルをフィーチャーするものの、実際には2017年の主役は既存の2モデル(4.7インチ、5.5インチ)
- 4インチは継続の可能性が高い
Appleはもともと2018年でのOLED採用を目指していたといわれており、2017年での採用は前倒しということになる。複数の話を総合する限り、AppleはOLED採用にかなり本気になっており、これに追随できない部品メーカーを主力から排除しつつあるようだ。一連の動きの弊害として、もともと2018年の採用計画を基に投資をスタートさせていた部品メーカーはラインの稼働が間に合わず、前述のように2017年中のパネル供給メーカーはSamsungただ1社に絞られるという結果になる。そのため、もともと小型OLED供給では最大手で、自身がセットメーカーとして最大の消費者でもあるSamsungが、自社に必要な生産能力にさらに上積みする形でApple向けの供給を行わなければならない。結果として供給能力に限度があり、筆者の推測値も含まれるがiPhoneの年間販売台数(2億1,000-3,000万台)の最大でも2-3割程度に留まるとみられる。現在の部品メーカーに対するAppleの発注規模から推測すると、2018年にはこれを最大で5割程度まで引き上げ、旧モデルや(iPhoneとしては)ローエンド製品を除けば、今後2-3年程度で主力モデルをすべてOLEDで置き換える計画だと考えられる。ただ問題として、これだけ大胆に主要コンポーネントを新技術で切り替えるのは非常にリスクが高く、AppleがかつてiPhone 5のインセルパネル採用やパネル供給問題で初代iPadが極度な品薄状態に陥った経緯を考えれば、同社としても避けたい事態だろう。そこで次期iPhoneでは実験的に全体の1-2割程度の製品を"スーパープレミア"としてOLED採用モデルにして、ここでのノウハウを流用する形で2018年にモデルの多くに拡大し、2019年には主力商品でのOLED切り替えにある程度目星をつける……という手順をとるのが濃厚だ。
ただし、これでは2017年のiPhoneを大幅刷新するという話にはならない。販売される製品の大部分は既存の液晶パネル技術の延長だからだ。そこで冒頭で紹介した、1月末にAppleが発表する2017年度第1四半期(2016年10-12月期)決算の話となる。筆者の見込みでは、ここでのiPhone販売台数は前年並みでそれほど減少もみられずに悪くないと考えているが、もしAppleがこの結果を見て「冒険せずに既存モデルでもアップグレードさえあれば売れる」と自信を持ったのであれば、「iPhone 7sとiPhone 7s Plusをそのまま2017年に投入する」と考えてもおかしくない。つまり筐体そのままで、プロセッサ強化や一部機能の変更を施した"アップグレード版"を今年2017年も継続投入する。
昨年2016年末に「次期モデルは筐体そのままのiPhone 7sが投入される」と報じていたメディアもあったが、Appleがこうした判断を下してもおかしくない状況が揃いつつある。もっとも、報道が行われたのは次期iPhoneのプロトタイピングの時期であり、筐体の新デザインがサプライヤ間で共有されることはない。Appleはプロトタイピングの時期には機能テストのために旧筐体に中身だけ新製品のプロトタイプに入れ替えたデバイスでテストを繰り返しているといわれ、現在はおそらくこのフェイズである可能性が高い。デザインが最終候補に絞られるのは春ごろで、今後3-4カ月はこうしたプロトタイピングが続くとみられる。