その点、液晶テレビ市場において、世界で戦ってきた経験を持つ「シャープ」ブランドは、鴻海にとっては重要なものになる。

ところが、シャープの自主再建策のなかで、シャープブランドを主要市場となる欧米において、テレビや白物家電事業で自ら使用できない契約を結んでしまった。ブランド戦略を世界的に展開したい鴻海にとって、ブランドビジネスに関するいまの契約内容を早期に見直したいと思うのは当然のことだろう。

ブランド強化の思惑は実現するか

戴社長は、社長就任後の2016年8月22日に、社員にあてた最初のメールで、そのタイトルを、「早期黒字化を実現し、輝けるグローバルブランドを目指す」とした。ここでは、自らが「シャープ」ブランドにこだわっていることを示しながら、信用の蓄積の証である「ブランド」を強化する方針に言及。「いま一度、ブランドを私たち自身で磨き上げ、グローバルで輝かせたいと考えている。そのためには、まず、私たち全員がお客様の気持ちに寄り添い、お客様一人ひとりが自分らしさを実現できる商品やサービスを提供する姿勢を持ち続け、シャープらしいオリジナリティあふれる価値を実現していくことが必要。シャープがこのようなブランドであり続けることを世界中のお客様に約束するメッセージを、今後、グローバルに発信していく」と述べた。

また、11月1日に打ち出した事業方針では、「成長軌道への転換」のひとつに「ブランド強化」を掲げ、「欧州テレビブランドライセンス先(UMC)との業務提携の強化」として、出資も視野に入れた関係強化、欧州市場での事業拡大などを盛り込んでおり、さらに、「その他地域・事業におけるブランドの再強化」も、ブランド強化策のなかに入れたていた。

この時点から、出資をしてまで、欧州でのブランドを買い戻す姿勢すら見せていたのだ。

ただ、シャープが、ブランドを強化していくと、鴻海の本業であるEMS事業において、自らが取引先と競合する立場になりかねない。

「シャープのブランドライセンスを世界中から買い戻したい」とする戴社長の思惑はどこまで実現するのか。そこにこだわればこだわるほど鴻海の立場は危うくなるともいえる。