東京を代表するオフィス街、丸の内・大手町地区。いや、東京だけではなく日本を代表するオフィス街だといってよい。一般的に、オフィス街というと、単純に企業が入居するオフィスビルが建ち並んでいる印象があるが、この地区に集まるビルは個性が強い。
ザッと点描してみると、まず「三菱一号館」が挙げられる。丸の内で最初のオフィスビルとなったこの建物は、1894年に建築された際の容姿をもとに再建。現在は美術館として機能している。2002年に竣工した新生「丸の内ビルディング」には、高級ブランド店が入居し、オフィスとしてだけでなく、高感度なショッピングのニーズにも応えている。
ユニークなところでは「大手町ホトリア」で、皇居外苑のお堀の水を浄化する機能を有している。また「大手町フィナンシャルシティ グランキューブ」(以下、グランキューブ)は、温泉を掘削しながら建設されたことで有名。温泉付きのフィットネスクラブを備え、近隣のビジネスパーソンに“憩い”を提供している。実はこのグランキューブは、温泉やフィットネスクラブいった機能のほかに、ベンチャー支援・育成という機能も持ち合わせている。
少々、前置きが長くなったが、着目したいのはこのグランキューブに居をかまえる「グローバルビジネスハブ東京」という施設だ。この施設は、一般社団法人グローバルビジネスハブ東京により運営されているもので、2~20人クラスのベンチャー企業に什器込みのオフィス機能を提供している。グランキューブ3階全体、敷地面積約2,726平方メートルという広大なスペースに、海外の成長企業や国内の先端ベンチャー企業が入居している。
什器付きオフィスだけではない。最大200名規模のイベントスペースや会議室、ラウンジなど、成長企業が業務に必要とするスペース、スタッフがリラックスできる空間の提供も行っている。
丸の内・大手町というと、重厚長大な大企業のみに本社機能が許されるオフィス街、というイメージを強く持つ方が多いかもしれない。だが、そうした大企業だけでなく、ベンチャーや海外からの進出企業なども数多く丸の内・大手町地区を拠点にしている。
しかも、こうした流れは実はわりと古くからある。
三菱地所 街ブランド推進部長 相川雅人氏は、「こうした流れはバブル崩壊の頃にさかのぼります」と振り返る。相川氏によると、当時、丸の内・大手町地区は銀行のオフィス需要が非常に高かったそうだ。当時は10以上もの大手銀行があり、丸の内・大手町地区に店舗や拠点をかまえるのが当たり前という風潮があった。
ところが、バブル崩壊がこの風潮を一変させる。バブル崩壊後、銀行の統廃合が急速に進み、当然、この地区に生じていた銀行のオフィス需要は減衰していく。三菱地所としてはこの流れに歯止めをかけるべく、何か施策を打たなくてはならない。
そこで、ブランドショップや有名シェフのレストランといった店舗をテナントに迎え入れ始めたのだ。
「銀行が集まっていたのは、高度経済成長によりこの地区が“ビジネス特化”されていたからです。ですが『ビジネスオンリーでいいのか』という考えが社内に生まれ、ブランドショップやレストランといった店舗に着目しました」(相川氏)。ビジネスパーソンだけでなく、銀座で楽しんでいる客を取り込むねらいもあったという。