デジタルを活用して制作、その恩恵と意外な苦労
――こだわったポイントについても教えていただけますか。
白髭 まずは頭部ですね。そもそも遊戯やアテムの髪の毛は、「絶対に立体では再現できない髪型にした」と原作者の高橋和希先生が言っているらしいんです(笑)。アニメや漫画だとどの角度から見ても周囲が赤くて中が黒いという色バランスなんですが、これが再現できないんですね。ただ、今回はそこをかなり原作に近づけられたと思います。
――たしかにぜんぜん違和感ないですね。
白髭 完璧な再現は不可能なデザインなので、厳密にいえば違いはありますけどね(笑)。
――これがもっとも原作に近づけたアテムの髪なわけですね。
白髭 ちなみに『遊☆戯☆王DM』のシリーズではアテムに近しい存在である闇遊戯がすでに発売されているのですが、その闇遊戯とも髪や体型が違っているんですよ。
――えっ、そうなのですか。服装以外は同じだと思っていました。
白髭 アテムの方が髪が少し長く、とんがっているところも多いんです。それから体も闇遊戯より筋肉質でシャープです。これは原作を読んでいて気づいたのですが、古代編あたりから筋肉のエッジが立っているんですね。闇遊戯とは明らかに筋肉のボリュームも流れも違うので、今回はそのあたりも再現しています。
――うーん、原作は読破していますが、まったく気づきませんでした。そういうところに目をつけられるのですね。
紀平 私がおすすめするポイントは、服を着せる前の胸筋ですね。白髭は女性がグッとくる筋肉を作るのがうまくて、胸以外だとお尻の筋肉もいいんですよ!
――お尻……ということは、そのあたりも作り込んでから服を着せるのですか?
白髭 そうですね。僕はまず裸の体を作り、そこに服を着せていくという流れで制作していきます。服を着せるといっても、"しわ"を作って服にしていくということですけどね。先に体を作っておくと、筋肉のラインを生かしながらピシッとした服を着せることができるんです。実は今回、「Z Brush」というデジタルソフトで原型を作っています。以前はすべて手で作っていたのですが、デジタルになってずいぶん調整が早く楽になりました。
――具体的にはどこがデジタルの恩恵を受けた部分ですか?
白髭 たとえばアテムが身につけている黄金の装飾具です。特に首にかけてある丸いところは、よく見ると細かく等間隔の溝が彫られています。この部分を手で一つ一つ彫るのはものすごく大変なのですが、デジタルだと幅を決めればすぐできますし、エッジも立ち、平面もなめらかに仕上がるのです。
――たしかにこういった細かく均一になっているところはデジタルの出番ですよね。
白髭 ただ、その等間隔の幅を計算するのは手作業で行ったので、結局かなり苦労はあったのですけどね。
――デジタルとアナログのハイブリッドな工程だったわけですね。
手の表情と筋肉
紀平 それから手の表情にも注目していただきたいですね。よく、「指の演技」というのですが、指先の角度ひとつでかっこよさが変わってくるんです。
白髭 たとえば「グー」の形でも、折り曲げた指を平たくそろえるのではなく、指の盛り上がりで段差をつけることで、グッと表情が出てくるんですよ。指はそろえないのが表情を出すためのコツです。
――なるほど、たしかに……。
お二人からもう一度、アテムのおすすめポイントを教えていただけますか。
白髭 いろいろありますが、トータルでいうとやっぱり筋肉ですかね。筋肉には流れがあって、ポーズによっても変わってきますし、キャラクターの印象を決めるポイントです。それからアテムならではの装飾具がビシっとかっこよく決まっているところも気に入っています。
紀平 二の腕とか、太ももの締まった感じとか、美しくて思わず見とれてしまう筋肉をぜひいろんな角度から眺めてほしいです! 二次元のパーフェクトな体を三次元で楽しめるのがフィギュアの醍醐味だと思うので。それから、表情、特に口元をチェックしてほしいです。アテムの顔、ステキに仕上がっています!
――お二人のアテム愛が伝わってくるお話でした(笑)。ありがとうございます。
今も国内外問わず高い人気を誇る『遊☆戯☆王DM』。多数の続編が登場しているが、やはり初代の人気は別格だ。主人公である武藤遊戯と表裏一体ともいえるアテムは、担当者の熱意と原型師のスケジュール、映画化の後押しなど、さまざまな幸運がからみあって誕生した運命的な作品だった。
「ARTFX J」シリーズのファンはもちろん、かつて原作やアニメを楽しんでいた方にもぜひおすすめしたい。
(C)高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社・テレビ東京・NAS