製造業か、知的財産か
もう1点、アップルのような企業の生き方について考えさせられるのは、工業的な生産を主体としたビジネスに戻るのか、知的財産を生かしたビジネスを推し進めるのか、という問題だ。その点で生産の米国回帰を促しているトランプ氏は、インダストリー4.0というよりは、第二次産業重視への揺り戻しにも感じられる。
アップル製品は米国で研究開発と設計、デザインが行われ、中国で生産され、米国を含む世界中の国々で利用される。知的財産の創造と実際の製品の生産の場所が分かれている。海外に資金が滞留することを考えれば、確かに米国に全ての富が戻っているわけではないが、アップルという企業活動が持続的に成長し、世界最大の評価額を得ることができたモデルだったのだ。
アップルがサムスンを相手取って、デザインの模倣に関する裁判で一歩も手を引かない姿勢を貫いているのは、知的財産を作り上げて行使するというビジネスモデルそのものを揺るがしかねない、と考えているからだろう。
その思想は、アップル以外にも波及し、利益を与えている。アプリのエコシステムの構築は、米国を含めた世界中の国々の個人や企業に対して、知的財産を直接的にビジネスや社会変革に利用することができる仕組みを与えているからだ。
製造業的な発展を目指すのか、よりレバレッジが効く知財を中心としたビジネスを発展させるのか。ティム・クック氏が、ドナルド・トランプ氏との初めての電話会談で、ここまで踏み込んだ会話に至ったのかどうかは、わからない。