高音質・低遅延のオーディオコーデック「aptX」

aptX (アプトエックス) は、高音質・低遅延を標榜するオーディオコーデック。2010年にCSRによって買収された英Audio Processing Technology社が1980年代に開発、DTS 5.1の基本アルゴリズムに使われているほか、映像ポストプロダクションや放送局向けの業務用機器で豊富な実績を持つが、2009年にはBluetooth/A2DPで利用できるよう規格を整備。以降、多くのスマートフォンやオーディオ機器にも採用されている。

aptXはWindowsやmacOS、Androidなど主要なOSにサポートされている

aptXも他のBluetooth/A2DP用コーデック同様に非可逆圧縮を行うが、「SBCやAACとは異なり、聴覚心理モデルを使わない。音楽本来の深みや楽しさ、奥行きの表現力を損なわないよう広い帯域で圧縮する。遅延も発生しにくい」(大島氏)という。聴覚心理モデルでは高音域の情報量が大幅に削減されるが、aptXでは高音域の情報を残した上で4分の1という固定比率で圧縮するアルゴリズムを採用、原音が持つ雰囲気を残した圧縮が可能とのことだ。

「aptX Low Latency」は、レイテンシ (遅延) の少なさを重視したコーデック。「音質はaptXと同等だが、遅延は40ms以下」(大島氏) とのことで、SBCの200±50ms、オリジナルaptXの100±10msと比較すると、映像と音声のズレが大幅に抑えられている。

最新コーデックの「aptX HD」は、最大48kHz/24bitというハイレゾ相当の音源を扱えるが、「聴覚心理モデルを利用せず、4対1の固定比率で圧縮するというアルゴリズムに変わりはない」(大島氏) という。ビットレートは576kbps (aptXは352kbps)、SN比は129dBを実現する。

PCM原音とaptX、SBC、AACのサンプリング周波数を測定したグラフ。聴覚心理モデルに基づき圧縮を行うSBCとAACでは高音域の情報が削られているが、aptXでは残っている

他のコーデックではデータが揃ってからデコードするため遅延が大きくなるが、パケット単位(ワード)を受信したつどデコードするaptXでは遅延を抑えられる

オーディオテクニカ 広報宣伝課 マネージャー 松永 貴之氏

メーカー関係者では、新ヘッドホンシリーズ「Sound Reality」のうち「ATH-DSR9BT」「ATH-DSR7BT」がaptX HDに対応したオーディオテクニカから、広報宣伝課 マネージャーの松永 貴之氏が登壇。「ポータブルオーディオ市場はハイレゾ対応が一般化し、一方ではBluetooth対応製品の伸長も著しい。世界に目を向ければ、ワイヤレスで聴くことがスタンダードになりつつある」(松永氏)と分析したうえで、同シリーズが掲げる「原音再生」「高解像度」「ワイヤレス」を実現するにあたって、aptX HDが重要な役割を果たしている、と述べた。

aptX HDに対応したフルデジタル・ワイヤレスヘッドホン「ATH-DSR9BT」

LGエレクトロニクス・ジャパン マーケティングチーム部長 金 東建氏

続いて登壇したLGエレクトロニクス・ジャパン マーケティングチーム部長の金 東建氏は、「LGとクアルコムは戦略的パートナーシップを締結、先端技術を自社戦略モデルに採用している」と両社の関係について説明したうえで、aptX HDを採用した2016年秋冬モデル「isai Beat LGV34」などのスマートフォンを紹介。音質に特化した製品についてもパートナーシップは生かされるとのことで、aptX HDを世界で初めて採用したワイヤレスイヤホン「TONE PLATINUM」についても説明した。

質疑応答では、aptX HDが従来のaptXからチューニングを変えているかとの質問に対し、「データ量を8bit分加えてビットアサインを変えただけで、符合化アルゴリズムは一切変えていない。プロフェッショナル分野からの要請であえてそのままにした」(大島氏) と、キープコンセプトの方針を表明した。

aptX HDを採用したスマートフォン「isai Beat LGV34」とワイヤレスイヤホン「TONE PLATINUM」