組織そのものではなく、そこで働く個々の人に目を向けると「運動部を経験してない人は心が折れやすい」と著者は指摘している。

ビジネスの世界では今、個人が能力を最大限に発揮するためには「レジリエンス」(跳ね返る力)が重要だと考えられているそうだ。このレジリエンスは「メンタルの強さ」と言い換えてもよく、筆者はこれまでの経験上、レジリエンスが高い人は体育会系のクラブに所属していたことが多いとしている。

「心が折れる職場」のチェックリスト。あなたの職場はどれだけ当てはまっているだろうか

運動部に所属すると、上下関係が厳しい縦社会に耐えながら、「大会に出るために練習しよう」と未来を見据えるようになる。問答無用の縦社会は否応無くストレス耐性を高めてくれるし、「ここをこうしてトレーニングしたら、●●ができるようになる」といった目的や未来志向の考えは、少々のストレスをはねのける。

「個々人の持つレジリエンスの違いが、職場でのストレス耐性の違いにつながってきます」と筆者。学生時代に運動部を経験していないと、こういったレジリエンスを養う機会が得られにくいため、心が折れやすいという。

運動部経験者同様、趣味がある人もレジリエンスが高いとしている。休日に趣味を満喫したり、趣味仲間から「ギターが上手だね」などと承認されたりするからだ。私たちの多くは「人から認められたい」という承認欲求を持つ。会社以外の場所で「承認」を得られる機会があれば、仕事のミスで失った自尊心を取り戻せる。そうすれば、自己を全否定するリスクも低減するだろう。

皆が軌を一にするはずの想い

同書ではほかにも、「何気ない一言が部下を追い詰める」「残業なし、ノルマなしでも不調になる」「労働時間と心の健康の関係は薄い」「なぜスピード出世の上司のもとでは部下の心は折れるのか」「メンタルヘルス研修が職場の不調者を増加させる」などのテーマにまつわる記述が展開されている。

同僚、上司、部下……。会社にいれば、私たちはさまざまな人と関わりをもたねばならず、業務上の成果もシビアに求められる。ただ、組織に属するからこそ、置かれている立場や役職に関係なく、「よりよい職場にしたい」という点では軌を一にするはず。そのためのヒントをくれそうなこの一冊、すべての企業勤めの人にとって一読する価値があるのではないだろうか。