公平なキャリアのチャンスがあるとはいえ、女性は出産などといったライフイベントがあり、配慮すべきことが多い。これまでは、必要性を感じた社員が声を上げ、経営者層が動くというボトムアップにより、託児所や搾乳室の設置など、女性の活躍のサポートが実現されてきた。その成果もありワーキングマザーの人数も急激に増加しているため、会社が経営戦略として、体系的に女性活躍を進める時期に来たと考えているのだ。
「今までは、社員が声をあげるボトムアップで物事が進んできた。大企業となった今、これまでの多様化から次のステージに来ている」(ダイバーシティ推進課担当者)と、会社の組織規模の変化による文化変容の視点でもその必要性を示唆する。
そこで求められるのが、楽天の考える“女性活躍”を体現する「ロールモデルの存在」だ。
ママ管理職としてのロールモデルの存在
ロールモデルとして、期待されている社員の一人にECカンパニーサービス管理部の林亜紀子さんがいる。現在、7歳と3歳の男の子を育てながら、企画グループのマネージャーとして、楽天市場のバックオフィス業務オペレーション改善のマネジメント業務に携わっている。
新卒で2003年に入社。ECコンサルタントという店舗をサポートする、いわゆる営業職に就いた。まだ楽天がベンチャー色の濃かった時代、就職先としての選択に、周囲からは「もっと安定したところに行ってほしい」と反対する声もあった。しかし、WEBデザイナーなどインターネットに関わる仕事に就きたいという思いから、楽天を選んだ。職種採用ではなかったため、望んだ職種とは違う営業へ配属されたが、「苦手なことを早く経験しておいた方が成長できるかもしれない」と受けいれた。
林さんのキャリアの転機は、3回ある。
1回目は入社して3年目、一緒にワインジャンルの出店者サポートの部署の立ち上げからやってきた上司が異動となったとき。それまでは、指示通り100%返すことを心掛けていたが、全てを自分で考えてやらなければいけない、過酷なチャレンジを経験した。「最初の4年間で10年分くらいの濃い時代を過ごした」と自身で振り返る日々は、彼女をタフにした。そんな彼女は、ワイン・アルコール事業部を軌道に乗せるという本来マネージャー職(係長級)で担うレベルの業務を任され、結果を出していたことから、同期の中でも出世は早く、入社4年でマネージャーに昇進した。
2回目は、その後結婚、出産を経て、1年後に復職した際、営業企画のリーダーとしてチーム作りに携わったとき。営業という最前線の現場から、今までとは勝手が違う未知の分野で、中長期ビジョンの設定、仕組みづくり、委託先の教育など、全く違う職種をにおけるチャレンジを経験した。しかも育児休暇復帰後という不安を抱えながら。「今までと同じ働き方はできないな」と思い時短勤務を選択したため、自身としては管理職ではなく一般社員として働く覚悟で復職したが、結果的に復職後3ヶ月でリーダーとして新たなチームの立ち上げを任され、順調に組織も拡大していき結果的に復職前よりも規模の大きいチームのマネジメントを経験することになった。
楽天では、時短勤務でも、管理職につけ、一定の格付け以上は給与の減額はない。著者が驚いたこの制度は、“公平な機会提供”として楽天が進める、裁量労働制、評価制度で、時間で働くのではなく、能力・成果主義という考えからだ。ゆえに、時短で働くことが昇進の足かせになることもなく、林さんは、2014年に第2子を出産、復職をしたのち、2015年に、時短のままマネージャー職へ復帰した。