漫画誌『ビッグコミックオリジナル』(小学館)で2006年に発表された『深夜食堂』は、2009年には小林薫主演でドラマ化され、現在第4シリーズに突入しているほか、11月には、映画『続・深夜食堂』の公開も決まっている。深夜の飯屋で繰り広げられる日本人の日常を切り取った、決して派手ではない本作は、アジアでも愛され、台湾や韓国でも新たな展開が広がっている。
例えば、台湾では映画が異例のヒットを記録し、台湾を舞台に中国語版のドラマ『深夜食堂』が制作された。韓国では、2012年にミュージカル化され、その後も再演を重ねているほか、韓国版ドラマ『深夜食堂fromソウル』も制作され、そのDVD-BOXが日本でも11月2日に発売になる。
昨今、海外に日本のコンテンツを輸出したいという製作者は多い。しかし、そのときに思い浮かぶのは、海外でも既に人気のある漫画原作、それもファンタジーやアクションなどの派手なものをとにかく映画化するということだろう。製作費をかけた大作で、キャスティングも若手から大御所まで、オールスターキャストにしたほうが良いのではないかと考えがちだ。
ところが、『深夜食堂』は、漫画原作ではあるものの、派手なスペクタクル巨編でもなく、描かれているのは、東京に暮らす人々の日常である。ドラマ版を作った当初は、海外でのここまでの展開も見込んでいなかったはずだろう。そのため、製作者やキャストであっても、「なぜ『深夜食堂』のような作品が、海外で愛されるのか、その理由が明確にわからないようだ。プロモーションで韓国を訪れた小林薫も、現地で人気の理由を聞かれ「正直わからない」と答えていたほどだ。
そんな日本の側からすると、謎だらけの『深夜食堂』のアジアでの人気について、また、どんな作品が韓国では興味を持たれているかについて、韓国版のドラマ『深夜食堂fromソウル』を制作した放送局・SBSの製作責任者キム・ウンヒャン氏に話を聞いた。
ドラマの現地化
――『深夜食堂』を知ったのは何がきっかけでしたか?
漫画が韓国で発刊された時にとても感動し、新刊が出るたびに書店に駆け込んで購入していました。
――韓国では2012年にミュージカル化もされましたが、日本からすると、なぜ『深夜食堂』が、韓国や中華圏で人気があったのか不思議に思っている人も多いようです。
深夜食堂は国境や異なる文化の壁を越えて、すべての人々に食べ物を通じて、情緒的な癒しと回復、感性の満腹感を抱かせてくれるので、単純に食べ物を題材としたほかの作品とははっきりと差別化されていると思います。どこの国の人であっても共感できるもという意味で、文化的な架け橋の役割をしたんじゃないでしょうか。
――そんな作品の韓国版ドラマを作ろうと思ったきっかけはなんでしたか?
原作はすでに韓国で人気があったので、その影響力を活用し、さらに韓国の視聴者に合うように韓国の食べ物をモチーフにして脚本を書き直し、所謂『現地化』をして、韓国の人が共感できる内容にして放送したらいいんじゃないかと思いました。そこには、刺激的なマクチャンドラマが溢れた韓国のドラマ環境に一石を投じて、心のこもったヒューマンドラマを作りたいという思いもありました。
※マクチャンドラマとは、ありえない展開のドラマのことを言う。突然の病気、事故、偶然の出会いの連続など、刺激的な出来事が次から次へと起こる作品のことを指す。