どれだけ早く量産体制が確立できるか
アップルがiPhoneに有機ELディスプレイを搭載すると見られているのは、2017年のモデル。これに対して、シャープがパイロットラインを稼働させ、小ロットの生産を開始するのが2018年4~6月。初期モデルの競争には参入できないというわけだ。
だが、競合他社もそれと状況は大きくは変わらない。現時点では、アップルの需要に対応できるような量産体制を敷いているのはサムスンだけであり、それ以外の企業はこれからの投資を加速する段階にある。いかに早く量産を確立するのかが鍵であり、各社が投資を急いでいる理由もそこにある。
しかし、これは大幅な出遅れを意味するものではない。アップルは当然のことながら、リスクヘッジのために、複数のベンダーと契約する。シャープが入り込む余地は残されているといえるわけだ。
どこに工場を計画するか
もうひとつは、2019年に稼働する工場を中国に設置することにこだわった点だ。当初は国内での生産ラインの設置を視野に入れていた模様だが、鴻海精密工業グループによるiPhoneの生産拠点が、中国にあり、供給面でメリットが生まれると考えれば当然だ。さらに新工場建設には、政府の支援なども得られるとの目論見もある。また、場合によっては、iPhone 4のときのように、アップルが工場稼働に向けた資金を提供するといった動きも考えられる。果たして、どの程度の生産規模の工場を計画しているのか。それによって、アップルとの交渉内容も大きく変化するだろう。
失敗から学び、需要を的確に把握することがカギ
いずれにしろ、シャープは、有機ELディスプレイを今後の事業成長領域のひとつに位置づけて、積極的な投資を行っていくことになるのは間違いないだろう。そして、そこには、アップルとの交渉内容が大きく影響することになる。
SMBC日興証券によると、現在の各社の設備投資計画をもとに試算した結果、2018年には、需要に対して供給過剰な状況が生まれ、液晶ディスプレイでみられたような過当競争が発生。価格下落によるパネルメーカーの収益悪化、投資抑制という負のサイクルに陥ることを懸念するが、その一方で、Curved、Rollable、Bendableといった有機ELディスプレイ特有の機能を活用すれば、スマホ一台あたりに利用されているパネル面積は、現在のガラスタイプのサイズに留まらず、2~3倍に拡大。それによって、むしろ需要に追いつかない状況が生まれると予測する。
液晶ディスプレイでは、供給過多の状況のなかで、負のサイクルに陥り、業績を悪化させたシャープが、有機ELディスプレイという新たな市場において、需要をどう読み、そこにどう投資をするのか。そして、百戦錬磨の鴻海精密グループの傘下という、これまでとは違う体制で挑む成果がどの形で表れるのか。当然、これまでとは手の打ち方が違ってくるだろう。シャープが果たして、どんな一手を打ってくるのかが注目される。