「女性活躍推進法」が施行され、ますます女性が活躍する社会が期待されている。しかし企業によってその進捗度合いはまちまち。主役となる女性も現場で様々な悩みを抱えている。そこで本連載は、自身も子育てをしながら企業に勤めた経験を持ち、現在は「女性のリーダーシップ」育成研修など、企業の女性活躍推進のコンサルタントを行う杉浦里多が、企業が乗り越えてきた課題と、そこで働き続ける女性社員の生の声を通じてビジネスの現場で起こり得る課題を提示、解決のヒントを提示する。
「暮らし感じる、変えていく」というCMのキャッチフレーズでおなじみ、洗剤や、消臭剤などの生活雑貨、SK-IIといった化粧品ブランドのメーカーP&G。同社は、女性が活躍できる企業として取り上げられることが多く、女性の働きやすさには定評がある。事実現在では、管理職の32%を女性が占めている。まさに女性活躍のトップランナーであり、同社が歩んできた道中で乗り越えてきた課題や解決方法は、これからという企業にとって、大いに参考になるだろう。
女性活躍は経営戦略という発想
P&Gは世界約70カ国に拠点を持つアメリカの企業だ。日本法人は本社を兵庫に構え、国内だけでも、19の国籍の社員が働いている。多様な文化、宗教等の背景を持つ人々が1つの組織で、共通する目標に向かって意識をあわせる、それは容易なことではない。互いを理解し、尊重していく。それをどうやって実現するか。多国籍企業にとって避けて通れないテーマだろう。だから同社にとって、多種多様な個性を尊重し、能力を100%生かすダイバーシティ&インクルージョンは当然の流れだった。
また、洗剤や消臭剤といった日常生活に密接に関わる商品を取り扱う同社。老若男女の多様性にとんだニーズを多角的に理解し、新しい発想の商品が生むために、ダイバーシティの推進は企業の成長につながる重要な戦略と考えているのだ。そしてそれは結果にも現れている。日本国内でダイバーシティの推進を掲げて来年で25年。スタートから売上高は約2倍、持続的な成長を続けている。なにより、生活様式の変化などに合わせて、誰でも知っているヒット商品を世に多く出し続けていることこそが、ダイバーシティ推進結果といっていいのではないだろうか。
そんな同社が、1990年代に日本においてダイバーシティを推進するにあたり、最も大きな課題だったのが、「女性」だった。
【P&Gのダイバーシティの歩み】 (1:女性活躍推進) 1992年~97年 社員主導で女性同士の情報交換ができる「ウーマンズネットワーク」を各部門で発足 (2:ダイバーシティ)98年~07年 00年、在宅勤務を育児、介護などの事情を抱えた社員対象に開始 (3:ダイバーシティ&インクルージョン)08年~現在 ビジネスへどうやって生かすかという戦略的視点からダイバーシティを進化 管理職向けインクルージョン・スキルトレーニングの強化 |
---|
92年からスタートしたダイバーシティ推進の取組みだが、第1フェーズは、女性の活躍に焦点を当てた。女性管理職比率が少し増えてきた時期ということもあり、社内では、女性社員の自発的なはたらきかけにより、女性同士が気軽に情報交換ができるようにすることを目的とした「ウーマンズネットワーク」が発足。
99年からの第2フェーズには、人事部にダイバーシティ担当を設置。女性の働きやすさだけでなく、全社員を対象とした広義のダイバーシティ推進へ移行。性別を超えた個々の多様性を理解するための社内向け教育をスタートさせた。さらに00年には、在宅勤務を開始。
第3フェーズと位置づける08年からは、ダイバーシティをより”活かす“ことに注力。組織の中の多様な背景を持つ一人ひとりを深く理解し、互いを受け入れ、活かしあう「インクルージョン・スキル」の強化に努めた。
そして今年、同社は、今まで進めてきた「ダイバーシティ」推進の知見を無償で社会に提供する活動をスタートさせた。