WHOの調査では、妊娠希望夫婦の10~15%が不妊症で、半分は男性が原因とされている。また、日本の性行為頻度と性生活満足度は極めて低く、婚姻関係にあるカップルでのセックスレスの割合は44.6%と約半数に迫っている。
今回のアンケート調査では、性交渉が1カ月に1回以下の人は、EDの男性では69.3%、パートナーがEDの女性では83.2%となっている。自分またはパートナーがEDだと思う人の場合、セックスレスの割合が非常に高くなっていることがわかる。
男性不妊の原因について、EDを含む性機能障害が原因の不妊症は平成10年の調査では3.3%だったが、平成28年の調査では13.5%まで上昇。このことからも、EDが現在増加中の問題であることがうかがえる。
また、EDはいわゆる男性更年期障害との関連も指摘されている。男性ホルモンのテストステロンは、20代をピークに下降の一途をたどるが、近年になって加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)として日本医師会雑誌などでも報告されるようになった。その臨床症状の筆頭として「性機能障害」が挙げられている。テストステロンは、体のあらゆる部分に作用するホルモンだが、性欲や生殖器などにも作用し、多いほど勃起能がよくなることが確認されている。
ED診療の実際と最新治療法
ED診療のガイドラインでは、治療の第1選択に「PDE5阻害剤」、第2選択に「海綿体注射あるいは陰圧式勃起補助具」、第3選択に「プロテーシス挿入手術」を考慮するとされている。しかし実際には「ほとんど第1選択のPDE5阻害剤までの治療で、第2、第3選択まで進めることは稀です」と辻村医師は話す。第2選択となる陰茎への注射には恐怖感が伴い、補助具にも煩わしさがあるためだという。第3選択のプロテーシス挿入手術については意思とは関係なく勃起するようになり、「これを勃起としていいのか」とみる考え方もあるという。
PDE5阻害剤のEDに対する有効性は、65歳未満では89%、65歳以上でも66%と高い。さらに、PDE5阻害剤には血管内皮機能への作用も確認されている。血管に異常があった場合、骨髄由来血管内皮前駆細胞(EPC)が修復するが、高血圧などの問題があるとうまく修復できず、血管内皮障害が発生する。
PDE5阻害剤を服用することでEPC増加が認められ、血管そのものの改善へとつながることが報告されている。これにより、糖尿病患者の心血管障害の発生を抑制するという調査もある。さらに、男性更年期障害の要因であるテストステロンの上昇も確認されている。
また、今後はED1000(低出力衝撃波)による治療も行われるようになると見込む。欧州ではすでに第1選択となっている治療法で、結石を潰すための衝撃波を陰茎に低出力で当てることで血流が改善し、EDの改善を目指していく治療となる。
「EDは生活習慣病や男性更年期障害と密接な関係がある症状。現状は医師に相談している人が非常に少ないですが、まずは病院で適切な治療を受けることが大切です」と辻村医師は締めくくった。
EDを話し合える関係性を築く
セミナーではそのほか、日本愛妻家協会の山名清隆事務局長をゲストに招き、今回のアンケート調査の結果をもとにしたトークセッションも行われた。EDによって自信を喪失してしまったとする報告や、パートナーとの関係の変化などの調査結果を受け、山名氏は「妻のほうから『一度病院に行ってみたら』と後押しがあるだけでもいい」と話した。
ただ、辻村医師は「それくらいオープンであれば理想的ですが、そこまでに至らない夫婦が多い。治療の場でも『みんなそうですよ』と話すと安心される方が多いですね。どうしても引け目を持たざるを得ないですから」と、ED治療の実情を明かす。
それを受け、山名氏は「EDはパーソナルなことなので相談しにくいもの。医者に話すことで安心できるし、それが大切な一歩ですよね。こういうことを『話せる』社会の寛容さと夫婦関係が必要だと感じます」と、EDに対する意識の変革が必要と話した。