さまざまな企業と協業するNVIDIA - 日本ではファナックとの提携を発表

ファン氏は、すでにNVIDIAの製品によるAIコンピューティングのエコシステムが形成されているという。多くのコンシューマー向けサービスが、クラウドやアプリでディープラーニングを活用するほか、MicrosoftやIBM、アマゾンなどのクラウド構築サービスでAIを利用できるようになっている。また、オンプレミス向けとしてもシスコ、デル、HPエンタープライズ、IBM、レノボといった企業がエンタープライズAIを提供している。また、NVIIDAは1,500以上に上るAI関連のスタートアップ企業と協力しているという。

続いて、GTC Japanに合わせて、日本のAI技術についても触れた。すでにレコメンデーションや株取引などにディープラーニングが応用され、IoT向けのディープラーニング構築も可能になり、さまざまな製品が登場しつつある。

こうした市場向けに、NVIDIAは、組み込み開発ボードJetson TX1を提供しているという。TX1を利用する製品は「インテリジェントデバイス」であり、カメラと組みあわせれば「誰が来たのか」を認識可能で、ドローンは人の近づけない場所を自律飛行し、配送ロボットにも応用できるとした。

そしてファン氏は、今回の大きなトピックとして、日本のファナックとの提携を発表した。ファナックは、AIを製造ロボットに導入するが、そのときにNVIDIAのテクノロジーを採用することを決定、NVIDIAと提携を行うことにしたという。壇上には、ファナック 取締役執行役員でロボット事業本部長の稲葉清典氏が登場し、ファン氏とAIと製造ロボットの未来について話し合った。

日本のファナック社がNVIDIAのAIプラットフォームを採用したと発表

ファナック 取締役専務執行役員でロボット事業本部長の稲葉清典氏。NVIDIAとの提携について語る

着実に進化する自動運転

さらにファン氏は、AIは「トランスポーテーション」市場を大きく変化させ、それには1,000兆ドルの市場規模があるという。そのうえで、自動運転は交通における利便性や安全性の向上に加えて、交通渋滞なども解消可能で、将来の都市計画にまで影響を与えるとした。

AIトランスポーテーションには、1000兆円の市場規模が想定されるという

自動運転は、AI技術のさまざまな要素が必要で、さらに実用化しても新たな経験に対応するために学習と改善を継続しなければならない。そのためにNVIDIAが提供しているのが、車載向けの開発プラットフォーム「DRIVE PX2」とそのOSとなる「DRIVEWORKS ALPHA 1」だ。

DRIVE PX 2は、高速道路での自動運転(Auto Cruise)から完全自律運転(Full Autonomy)までをカバーできるスケーラブルな単一アーキテクチャの車載用ボードコンピューター

DRIVE PX2は、高速道路の自動運転である「オートクルーズ」から、完全自律運転までを同一アーキテクチャで対応するスケーラブルなシステム。自動運転には、単純に高速道路を自動走行することから、目的地まで自動で運転するもの、さらにまったくドライバーを必要としない自律運転まで広い幅がある。

必要とされるソフトウェアも多数あり、高度なシステムになれるほど必要なソフトウェアが増えて積み上がっていく。このため、同一アーキテクチャでスケーラブルに拡大できるシステムを使い、ソフトウェアを共通化することが重要だという。

Drive PX2は、PascalアーキテクチャのGPUを内蔵するSoCを使ったものから、複数のGPUを搭載する高性能な製品があり、さらに高度な要求には、複数のDrive PX 2を利用することも可能だ。ファン氏は、このうち、オートクルーズレベルの自動運転に対応する「DRIVE PX 2 AUTOCRUSE」を紹介した。これは、10WのSoCを搭載、水冷などのアクティブ冷却が不要な製品となっている。

そして、こうした製品で利用できる自動運転車のためのOSが「DRIVEWORKS ALPHA 1」だ。これは、さまざまな自動運転用コンポーネントからなるソフトウェアで、自動運転に必要な基本的な機能を備える。

DRIVEWORKSは、自動運転車用のオペレーティングシステム

自己位置推定機能や、画像から周囲の物体を認識するディープニューラルネットワークである「DriveNET」と、走行可能な「フリースペース」を認識する「OpenROADNET」を使い、周囲をどのような物体が占有しているのかを記述する「オキュパンシーグリッド」を作る。また、運転を制御する「PilotNet」は、オキュパンシーグリッドから、交通状況がどうなっていくかを予測、自車の走行路を計画し、それに基づいて自動車を制御する。

オキュパンシーグリッドを使って、自車と周囲の状況を俯瞰するグラフィックスを表示することも可能だという。このため、将来の自動車では、自動運転しない場合でも、ミラーは不要になるという。

DRIVEWORKSのオキュパンシーグリッドを可視化することで、俯瞰映像を表示できる

その後ファン氏は、実際に「DRIVEWORKS」を使った走行実験のデモビデオを見せた。運転席からの録画画像に、DRIVENETが認識した他車を立方体で示し、道路上のラインを認識して走行路を判別する。その上で、自車が進行可能な「フリースペース」を判断、これに応じて自車のコントロールを行っている。また、こうした走行状態を後方や側面からの俯瞰画像にして表示することもNVIDIAのビジュアルコンピューティングで可能になるという。

DRIVEWORKSによる走行時の外界認識状態をビデオに重ねて可視化したもの。直方体で示されるのが認識された物体。同心円で示されるのが走行可能な空きスペース

さらにNVIDIAが実際に開発している自動運転車BB8の走行デモビデオも合わせて紹介された。BB8は、人間が実際に運転して得たデータを学習し、画像から進行方向を判断、道路の工事などを判断し必ずしも道がなくても、コーンの間を走り抜けることができるようになったという。

NVIDIAのプラットフォームは、中国BaiduやオランダのTOMTOMといった企業の自律走行車開発でも採用されている。クラウドを利用するオープンプラットフォーム「CLOUD-TO-CAR」を構築するもので、クラウド側にTesla、車側にDRIVE PX 2を搭載する。

BaiduとTOMTOMの自律走行車開発にもNVIDIAのテクノロジーが採用されたという

また、ファン氏は、次世代の製品としてXAVIER(エグザビアー)を紹介した。これは、次世代アーキテクチャ"Volta"をベースとしたGPUに加え、64bit ARMアーキテクチャの改良版であるDenverコア8基を統合するもの。コンピュータービジョン処理のハードウェアであるCVA(Computer Vision Acceralerter)も搭載している。

XAVIERは、次世代のAIスーパーコンピュータSoC。"Volta"やコンピュータビジョンアクセラレーターハードウェアを搭載

このXAVIER SoCを使えば、現在のDRIVE PX2と同性能のボードを20Wのコンパクトなボードとして実現できるという。

XAVIERを使うことで現在のDRIVE PX2と同性能以上のコンパクトな車載コンピュータを開発できる

そしてファン氏は「NVIDIAは、すべての領域にAIコンピューティングを提供できるパートナーである」とし、AIはすべての人が利用可能になるという。「AIはもはやSFじゃない」としてファン氏は講演を締めくくった。