「正直、残業ができない状況や、能力的にも『任せて大丈夫か』とみられたとも思う。しかし、仕事はみんなで支えあって進めていくものだとの考えを自分自身で持っていたし、上司も『できないことは助けてやろう』という気概をもって任せてくれたのだと思う」。“言いやすい雰囲気”と“やりたいことをやらせる”社風が、彼女のキャリアをかえるきっかけを作った。

幹部に抜擢! もっと仕事が面白くなる。

自身が中心になって仕事を回す、という前線に戻ると、「やはりこの働き方楽しい。」と仕事の中身に欲が出た菅野さん。1年ほどして第3子を妊娠・出産したが、「仕事が面白くて、自分がやりたくて」、今度は2カ月で復帰した。しばらくは時短勤務で後方支援業務をおこなったが、第3子が、2~3歳のころ、新しいシステム開発のプロジェクトに声をかけられ、プロジェクトマネージャーとして再度、前線に復帰した。

以降、課長、担当部長に昇格。「仕事の内容への欲はあったが、管理職への欲はなかった」という彼女だったが、昇進への打診があったとき、「取引先が金融機関だったので、密にやるには役職が大事そうだなと、少し昇進の欲が出始めたいいタイミングだった」と振り返る。管理職になったことで業務を俯瞰する視点が上がり、動かせる範囲や、変えていける事柄が増したことなどに、「仕事がもっと面白くなった」とも語る。

上層部が変われば、社員が変わる

菅野さんは、自身がキャリアで培ってきた知見とともに、母としての経験を「結婚・出産してもできるよ」と伝えていきたいと、後輩女性の育成にも意欲的だ。

著者は15年から女性のリーダーシップ研修を通じて、同社の女性活躍推進の取り組みに参加しているが、外部の視点から見ても「大きな変化」を感じる。当初は「上司に薦められて」と半ば強制的な意識や、「なぜ今さら活躍?」とキャリアの長い女性の反発、「私なんて・・」と自信のない女性にあふれていた。しかし今は研修に定員を大きく超える応募があり、開催回数を増やすなど急遽対応を迫られるほどだ。参加者の意識も「もっと活躍したい」「ロールモデルになりたい」と前向きに変化している。

(右)菅野さんの上司・宇田川則幸部長

短期間のうちに、これほど女性の意識が変わった理由は、改革を「トップの肝入り」で進めたコミットメントだと筆者は分析する。同社は時間や予算、人員を優先的にしっかりと割いて、女性活躍推進はやったほうがいいではなく、やらなければならないこと、という圧倒的なコミットメントの高さで取り組んだ。その一例として、上層部の理解を共通にし、推進のキーマンとしての自覚を促すことを狙った「ダイバーシティ・マネジメントセミナー」を幹部社員全員を対象に実施。「最後の1人まで追いかけて受けてもらっています」(ダイバーシティ推進チームの川井茂子さん)と徹底した。前述の菅野さんも「会社の本気度が通じた」と評価する。