――驚くほどの即断即決ですね。とはいえ、技術面でうまくいかず、中澤さんがその場で判断できない場面はないのでしょうか。

やっぱり、ないですね。イエス、ノーが重要なんです。「その条件飲めない」「いやだ」と言っているだけでは、話が進まないので。

1stシーズンから1年経って、中国の工場メンバーに接するノウハウも溜まってきました。日本のメーカーでやりとりしていた内容よりもさらに踏み込んで、「こういう風に構造、生地を変えてみたらどう」とか「渡している見本より塗装が1コート足りないんじゃない」とか、メーカーの中での商品企画という立場とは異なり、割とズカズカと技術面にも踏み込んで一緒に考えて解決するようにしています。

UPQが入居する秋葉原のものづくり施設DMM.make AKIBAでは、製品発表会も多く開催される。写真は2016年8月9日に行われた設立1周年記念発表会で、UPQ BIKE me01と一緒に撮影

そのために、日本側ではDMM.make AKIBA(※UPQが入居しているコワーキングスペース)や、Cerevo(※UPQのサポートを行う家電メーカー)の仲間たちに色々と相談させてもらうことも増えました。

こちらで方法も提示して、やってもらうことはやってもらう。諦めることはないです。中国の皆に頑張ってもらう分、私もふんばっていて(笑)。いかに皆が仕上げてくる物をサポートできるかが、一番大事なことかなと思っています。

ノウハウが無かった当初は、まさに手探り状態でした。1年たって製品数が最初の24製品から59製品まで増えたのですが、その分のノウハウが溜まっているので、うまく行くことが多くなったかなと。

――DMM.make STOREの通販のみだった当初から取り扱い店舗が増え、販路も大きく拡大しましたね。

そうですね。2015年8月に1stシーズンを発表した後、9月初めには蔦屋家電で、10月初めにはビックカメラで販売を始めて。11月にはヤマダ電機で展示が始まり、12月にはPARCOとヤマダ電機で販売を始めました。2016年に入ってからは、1月にシンガポールのECサイト、2月にヨドバシカメラ、3月はUAE(アラブ首長国連邦)のECサイトで販売を始めて、6月にはイオン、8月には三越伊勢丹でも取り扱いが始まりました。売り場はものすごく拡大しています。

発表した時はDMM.make STOREの取り扱いのみが決定していました。もちろん、ハードウェアなので、店頭で手に取ってもらえるのが一番良いんですが、スタートアップの私達に家電量販店が開けてくれる窓口があると思わなかったですし、掛け率の問題もあると思っていて、まさか(家電量販店に)置いてもらえると思っていなかったんですよ。

でもそれが、量販店さんの方からお声を掛けていただいたんです。売り場が広がって、多くの人が手にとってくれる。モノが売れないと言われるこの時代でも「ベンチャーが家電を作って売れるんだ」という発見につながりましたね。

店頭での取り扱いも増えてきたが、DMM.make STOREでもまだ販売を続けている

――量販店店頭での販売、手応えはありますか。

量販店さんもECサイトをお持ちなので具体数まではわかりませんが、自社でいえば全生産数の7割ほどが店頭で売れている肌感があります。店頭で扱う影響力は大きいですね。即買いじゃないにしても、実際触ってみて、なんかこれいいなと気になって売り場を回って、結局買っちゃうというのも含めて。通販が伸びていると言っても、やっぱり店頭で見て買ってくれる方が多いんだなということも、発見でした。

2016年3月に「ガイアの夜明け」(テレビ東京)というテレビ番組で取り上げられたのですが、放映後に何が起こったかというと、量販店の店員さんが言うには店頭に来る人が増えたと。「UPQの売り場はどこですか」と聞かれるというんです。

お客さんに、実際に足を運んでもらう。これはECサイトじゃできないことで、何ものにも代えがたい店頭の価値だと思います。

これからの時代、IoTだけじゃなく普通の家電でも、少し角度を変えてものづくりをしてみれば、まだまだ「売れる時代」かもしれない、という可能性を感じられたのは、製品を店頭に出してみたから。今まで仮説でしかなかったことを初めて実証できました。

今、量販店も新しい価値が必要になってきていると感じています。要は、「見た目は変わらないんだけど、去年のモデルと比べて当社比で3倍美味しく炊けるモデルができました!値段は頑張って据え置きしました」というスペック押しだけの炊飯器だけでは商売にならない。「人が集まってこられる売り場を作りたい」というのが正直なところなんじゃないかと思っていて。

そういう意味で、UPQの製品は、店頭に人を呼べる商品として見てもらえているように思います。

2016年6月にオープンしたイオングループ最大規模の旗艦店「イオンタウンユーカリが丘」でも製品が展示販売されている

"ライフスタイルの提案"がコンセプトの家電ショップ「二子玉川 蔦屋家電」では早くから取り扱いを開始。その後の家電量販店への展開の契機となった