その可能性を牽引するのが、もともと山本さんが2011年に立ち上げて、今も人気の「サマリー」というSNSサービスだ。

「サマリー」は、「物欲系SNS」などと呼ばれるユニークなサービス。ネット上にある画像で、ユーザーがすでに持っているモノがあれば「have(持っている)」とマーキング。今は持っていないがほしいモノの画像があれば「want(ほしい)」とマーキングして、『サマリー』の自分のタイムラインにアップされる、というものだ。

着想のヒントは山本さんが前職で、雑誌編集者をしていた経験だという。

「ファッション誌で定番的に人気なのが、業界人の『カバンの中身を公開!』という企画と、『展示会で買いたいもの』という企画。まさにセンスのいい人、あるいは好みの合う人の『have』と『want』をみて楽しんだり、自分で買い物するときの参考にするわけです。いわば、“人を通したモノとの出会い”を楽しんでいる。そんなプラットフォームを作ろうと考えたわけです」(山本さん)。

だから「サマリー」でセンスが合う人をフォローすれば、その人が「want」「have」したい「知らなかったが、嗜好があうモノ」と出会えるチャンスが増える。「自分とよく『have』や『want』をしているスニーカーがかぶるあのユーザーは、センスが似ている。そんな人が『have』している文房具なら、機能的でスタイリッシュに違いない!」と、ごく自然なかたちでモノが好きな人たちの物欲をほどよく刺激してくれるわけだ。そのモノとの出会いを楽しむため、ファッション好きを中心に、すでに75万人のユーザーが参加している。

「サマリーポケット」の礎となっているサービスが、モノで繋がるSNS「サマリー」だ。各自がほしいモノ、持っているモノを画像で示し、「良いモノ」「センスの合うモノ」との出会いを促す

一方で、「サマリー」の情報は、他にはないユニークなマーケティングデータとなる。単純に「want」をつけているユーザーは、ほしいモノが「見える化」した状態であることだ。さらに「have」と「want」のデータを解析すれば「こういう商品を持っている人は、こんな商品をほしいと思っている」という潜在的なニーズがつかめる。

「『サマリー』ではこうした情報をもとにして『おすすめ』の画像を紹介していますが、ここで実際にモノが売買できる場となれば、とても魅力的な“欲しいモノが手に入る場”となるわけです」(山本さん)。

ここにリアルの個人向け倉庫が加わることで「サマリーポケット」が生まれた。

「倉庫に保管するモノも、あとで『そろそろ手放したい』『売れるならば売りたい』と感じることはままある。『サマリー』には、そんなときに『Aというスニーカーがほしい』という人がすでに何人も見える、わけです。つまり、『サマリーポケット』で預かったモノと『サマリー』をつなげれば、とても精度が高いマッチングの場になる。当然、成約率が高い、CtoCによるEコマースのプラットフォームが生まれる、というわけです」。

そうなったとき「サマリーポケット」を通して「預ける」「手放す」「手に入れる」という行為が、もっと自由にできるようになるはずだ。それは「所有」の概念を変えると同時に、さらに人々に自由の翼を手に入れさせることにもなりそうだ。

「DropboxがHDDの容量から僕たちを開放してくれて『どこでも仕事ができる』という状態をつくったのと同じことが、『サマリーポケット』で起こりうる。モノをしっかり持ちながらもそれが自由にどこでも取り出せられ、手に入るようになれば、『どこでも“生きていける”』ということに近い状態が、それこそカジュアルに手に入れられるかもしれませんからね」(山本さん)。

“四次元ポケット”が目指すのは、捨てるでもなく持ちすぎるでもなく、真に豊かにモノとつきあえる未来だ。とんでもないパラダイムシフトの着火点になるかもしれない。

すくなくとも、夫婦ゲンカはさらに減りそうだ。