昔からあるビジネスモデルや、すたれつつあるモノやコト……。少しだけ手を加えて“リブート”させると、それがとたんに斬新なビジネスに生まれ変わることがあります。「リブート! “再起業”の瞬間」。第6回目は、トランクルームとスマホをつなげ、新しいモノとのつきあい方を提案する「サマリーポケット」です。
自宅にある数百枚のCDの音楽データをiCloudに保存、スマホやPCで聴きたいときにいつでも聴けるようにする。HDドライブに置いていたテキストや画像をDropboxに入れ、ネット環境さえあれば、どこでも読めたり、編集ができるようになる――。
クラウドサービスならではのこうした利便性を、現実の“モノ”にまで応用させたのが『サマリーポケット』だ。
いわく「スマホひとつで部屋が劇的に片付く収納アプリ」。
使い方はこうだ。
株式会社SumallyのCEO山本憲資さん。1981年生まれ。一橋大学卒業後、電通入社。その後コンデナスト・ジャパンで雑誌『GQ』の編集に携わった後、2010年、モノ系SNS「サマリー」で独立。15年に新サービス「サマリーポケット」をローンチ |
まずスマホに「サマリーポケット」のアプリをダウンロード。このアプリ経由で、一箱300円の専用段ボール箱を買う。翌日には箱が届くので、そこにオフシーズンの洋服や、すでに読んだがとっておきたい本など「めったに使わないけれど、残しておきたいモノ」を詰め込む。あとは再びアプリで「集荷」を申し込めば、宅配便のスタッフが自宅へ。着払いで倉庫まで荷物を運びこんでもらえ、その後は、一箱あたり月額300円でしっかりと保管してくれる、というわけだ。
「こうした気軽さから都市部の夫婦の方などにも多く利用いただいています。『妻の洋服が多すぎる』『夫のガラクタを片付けたい』というモノにまつわるいざこざでケンカ。それを遠因に離婚される夫婦も少なくないそうで(笑)」(サマリーのCEO 山本憲資さん)。
単なる“貸倉庫”とは異なる
もっとも、“クラウド的な利便性”があるのは、ここから。
実は、倉庫で保管された利用者のモノは、一点一点、無料で撮影され、画像としてアプリ上でいつでも見られるようになる。しかもアイテムの画像はリスト化されて、ジャンル別に分けてもらえる。しかも、ジャンル分けやカテゴリーの名付けは、あとからアプリ上で変更可能。「夏物」「長袖カットソー」「マンガ本」「スターウォーズのフィギュア」「大学時代の思い出」など、好き勝手なカテゴリー分けで倉庫のモノを管理できるわけだ。 後日、このスマホの画像リストを見ながら「預けていたこのジャケット、そろそろ着たいな」「来週、スノボに行くから、預けていたこのウェア、取り寄せないと」などと思ったら、アイテムの画像をタップ。これだけで預けていた荷物が、最速で翌日には宅急便で自宅に届けられる仕組みだ。取り出し送料として、一箱800円かかる。
「個人の荷物を預かるトランクルームのようなサービスは昔からありますが」と、このサービスを立ち上げた山本さんはいう。
「荷物をただ預けるのではなく、荷物があたかも『手元で持てる』ようになるサービスはなかった。スマホが“四次元ポケット”になるような体験をしてもらえるわけです。この体験は画期的だと僕らは思っているんですよ」(山本さん)。
少し前、断捨離やミニマリストといった、ストイックに「モノを持たない」ライフスタイルが注目された。しかし、実のところ「シンプルな生活はしたいけれど、ほしいモノはほしい」「気に入ったモノはほしいけれど、モノで生活の場を窮屈したくない」という半ば矛盾した思いを抱く人がほとんどだろう。
「サマリーポケット」は、そんなニーズを、リーズナブルに満たす。
昨年夏にローンチして、アプリダウンロード数は現在、約5万回。しかし、土地代の高い都市部に住む30代を中心に、オフシーズンの洋服や本などを預けるケースが多いという。
6月からは「ハンガー保管」と「クリーニング」のサービスも開始。スマホ上でリストの画像をタップするだけで、預けた荷物をドライクリーニングに出せるようになった。久しぶりに着る冠婚葬祭用のシャツやスーツを預けておいて、必要なときはクリーニングに出してキレイにしてから着る。あるいは一度着たスーツをひとまず『サマリーポケット』に預けて、すぐにクリーニングとハンガー保管を頼み、「クラウド上のクローゼット」のように活用する、といった具合にさらに利便性を加え、ユーザー増につなげるねらいだ。
それにしても保管倉庫の管理運営や、預かったモノの開封や撮影、管理などマンパワーや土地代も含めた、手間とコストのかかるこのサービス。「いったいどれほど初期投資がかかったのか?」といぶかしがる方もいるかもしれない。
実は、強力な協力者が裏から支えている。主に企業向けのBtoB向けに、倉庫保管事業をしている老舗企業「寺田倉庫」だ。
従来のトランクサービスでは、顧客からの荷物は、紛失や損壊の可能性があるため、基本的に開けずにそのまま預かる。写真撮影や単品管理などは手間とリスクでしかないからだ。しかし、寺田倉庫はそもそもBtoBの倉庫管理業務で「預かった部品などの荷物をバラしてから、単品管理しておく」という作業を通常業務としてつづけていた。このノウハウを個人向けにも応用して、他にはない付加価値としてすでにスタートさせていたのだ。
もっとも、「いつでもどこでも」という四次元ポケットのような利便性の提供までには及んでいなかった。それができるインタフェースとして、やはり手元にいつもあるスマホに強みがある。そこで寺田倉庫は、UIやUXにこだわった使い勝手のいいスマホアプリ「サマリーポケット」と連携した個人向け倉庫業務をサマリーと組むことで新たに展開。今春にはサマリーに出資もした、というわけだ。
さらに寺田倉庫が「サマリーポケット」にここまで期待を寄せる理由は、もう一つある。 新しいEコマースの可能性だ。