ワタミらしからぬ新業態が具体化した背景とは
ワタミが社内で新業態開発のアイデアを募集し始めたのは2015年のこと。約160件の提案があり、TEXMEX FACTORYが同制度の第1号案件に選ばれた。ピンクやエメラルドグリーンを使用した派手な内装や、メキシカンスカルをトレードマークとする点など、居酒屋をメインとするワタミには一見すると似つかわしくない新業態だが、同社幹部は久保田氏の提案を面白いと評価。久保田氏も「通るとは思わなかった」と語るアイデアが今、形になった。
久保田氏によれば、新業態開発ではワタミグループならではの恩恵を受けたという。それは資金面にとどまらず、例えば内装の「スターライト(星の形をした照明)」を選ぶ際にも、「(個人では難しいが)ワタミなら」ということでサンプルを送ってもらったことがあったという。
グループの強みをいかし、社員が挑戦できる仕組み
労務訴訟などでブランドイメージが悪化した影響もあり、近年のワタミは業績不振に陥っていた。2015年度の売上高は約1,282億円で、損益面では約3億円の営業赤字を計上。収益の柱だった介護事業は2015年12月に損保ジャパン日本興亜に譲渡した。しかし、2016年度第1四半期の業績を見ると、既存店売上高と既存店客数は共に前年同期比で0.3%増と、かすかではあるが下げ止まりの兆しも見え始めている。
多種多様なレストランが現れては消えていく外食業界で、好みが多様化する顧客の奪い合いに勝ち抜いていくのは容易ではない。イメージが悪化していることに目をつぶったとしても、“居酒屋のワタミ”という単一ブランドで業績回復と事業拡大を追求していくのは難しいのが現状だ。顧客の変化に合わせてワタミ自身も多様化を図る必要があるとすれば、新業態の公募制度は1つの突破口になる可能性がある。
TEXMEX FACTORYのメニューは、テキーラベースのカクテルが700円、チキンファヒータが2,680円、ビーフタコスが1,880円、チキンブリトーが1,680円といった感じ。外食産業の「プチ高級路線」にマッチしそうな価格帯だ。写真はケソフォンディード(左)とTEXMEXサラダ |
ワタミの資金力、知名度、仕入れルート、ノウハウなどを活用し、社員が自らのアイデアを具体化できる同制度が確立すれば、ワタミグループでは次々に新たな業態が誕生するかもしれない。テクスメクス料理が日本で流行るかどうかも気になるが、注目すべきはTEXMEX FACTORYがビジネスとして成功するかどうかだろう。この店が繁盛すれば、ワタミの新業態公募制度は更に活気づき、同社から新たな優良ブランドが誕生する確立も高まりそうだ。