食品化学新聞社はこのほど、近年さまざまな形で注目を集めている「糖質」に着目し、新たな商品開発の指針となる方法論を考える食品開発実践セミナーを開催した。
糖質制限によるダイエットの流行から、「糖質オフ」などの大幅に糖質をカットされた商品が数多く展開される一方で、最近になって過度な糖質制限による問題点も指摘されるようになった。今後、私たちにとって重要なエネルギー源である「糖質」を、どのように消費者に提案していくかを考えた。
糖質制限食は肌荒れや老化の原因にも
同セミナーでは各業界の専門家が、それぞれの見地から今後の食品業界を見通すためのデータを解説した。栄養学の立場からは、学術博士で日本獣医生命科学大学客員教授の佐藤秀美氏が、これからの糖質摂取のあり方について解説した。
数年前から「糖質制限」で体重をコントロールするダイエットが注目されてきたが、最近になって過度の糖質制限による健康への不安が取りざたされるようになってきた。糖質は日常生活における主要な脳の栄養素。糖質が血糖(ブドウ糖)となり、脳を活動させるためのエネルギー源となる。たんぱく質や脂質を脳のエネルギー源とするのは、極めて緊急的なケースだ。
また、脂肪は糖の炎によって燃やされるので、糖質が不足すると脂肪も燃焼しにくくなる。内臓におけるたんぱく質の半分は10日ほどで新しいものに置き換わっていくが、糖質が不足するとたんぱく質がエネルギーにされてしまうため、肌荒れなどのトラブルにつながるほか、免疫低下や老化の進行を招くという。これではダイエットの意味がない。
佐藤氏は、糖質をたんぱく質や脂質(油)に置き換えた場合、どのような割合になるのかを試算したデータを提示した。糖質制限として炭水化物を減らし、肉や魚、油などでそのエネルギーを補おうとすると、どうしても高たんぱく・高脂質になる。
だが総摂取エネルギーのうち、たんぱく質由来のエネルギーが20%を超えると糖尿病や心臓病、骨粗しょう症、がんなどの発症リスクが増加し、同様に不飽和脂肪酸からが7%を超えると動脈硬化性疾患、特に心筋梗塞のリスクが増大するという。
「糖質制限食は『脂肪増量食』とも言えます。糖質制限でたんぱく質、不飽和脂肪酸量が増えてしまうことは、病気のリスクを高めてしまうことになります」。
糖質を摂(と)りすぎることも問題があるのは事実。しかし糖質を「悪」としてカットするのではなく、工夫して上手にとっていくことが大切だ。
「和食ではよく言われますが、栄養バランスの整った一汁三菜が理想的な糖質の摂り方です。この考え方にのっとっていれば、洋食でも中華でも実践できます。また、糖質は『見える糖質』だけでなく、『見えない糖質』を意識することも大切です」。
例えばお米や豆類など、食材として見えるものは「見える糖質」だが、煮物の煮汁や酢の物の合わせ酢など、調理に使われた砂糖は「見えない糖質」だ。
「コンビニなどにも豊富に総菜が並びますが、例えばそこに調味料も含めた糖質量や、糖の吸収のされ方が緩やかであるなどの特徴が記載されていれば、買う側の動機にもなりますよね」と佐藤氏。この「見えない糖質」まで含めた糖質の摂り方を考えることが、今後の糖質への考え方のカギになるとまとめた。
機能性食品の市場動向と消費者意識の変化
イトーヨーカ堂 食品事業部の秋谷健太氏は、糖質オフなどの健康を意識した食品の市場動向と消費者意識の変化について紹介した。
日本の総人口は現在減少傾向にあるが、高齢者人口は2015年時点で過去最多となっており、それに伴って医療費も増加している。一方で2015年4月1日からは、「機能性表示制度」が開始され、食品に対してヘルスクレームを表示できるようになった。そのような背景もあり、ヘルスケア・ビューティ食品市場は近年になって急速に拡大傾向にあるという。健康面を訴求した商品が新発売されては消えていく中、売れ続ける機能性食品とはどのようなものだろうか。
「やはり、『おいしいもの』ですね。どんなによい効果が期待できる食品であっても、おいしくないと続かない。そういう意味では市場の反応は顕著です。おいしさありきで健康価値がプラスされたものでないと、売れ続けることは難しいですね」。
例えば、ビール類においては市場全体が縮小傾向にあるが、糖質オフやプリン体オフなどをうたった「機能性ビール類」の市場は拡大傾向にある。だが、発売当初は高い売り上げを出せても「味わいが違う」「おいしくない」とすぐに販売数が落ちてしまう商品も少なくない。その中で売り上げを維持し続けている商品は、消費者の75%以上が「味に満足」と回答しているもの。機能で優れていても、おいしさを維持しなければ市場には残れない。
「良薬は口に苦し、とは言いますが、食品は薬ではありません。今後、健康増進のための機能性食品市場はますます拡大していくと考えられますが、おいしさは大前提として考えなければなりません」。
消費者の健康意識が高まる中、おいしさを維持したまま健康機能を付加できるかが売れる商品のポイントになると秋谷氏は総括した。