世界各国から集まった記者陣は、朝7時45分に某ホテルのロビーに集合。アップルの担当者から入場パスを受け取る。パスのデザインは毎年異なり、今年は黒地にコーラルレッドのアップルロゴが印象的なスタイリッシュなデザインだ。パスを受け取ったら、メディア関係者専用のシャトルバスに乗って会場に向かう。朝のせいか全員テンションが低めだ。

このパスを首から下げて会場へ向かう

バスに揺られること約10分、キーノート会場となる「ビル・グラハム・シビック・オーディトリウム」に到着。天気は前日に引き続きからっとした快晴だが、朝晩は冷え込むため、6月でもジャケットを着ないと寒い。

建物中央にはアップルのロゴが、そして入り口には「Hello, WWDC16.」と公式サイトと同じデザインの看板が掲げられていた。目の前の広場には、すでに開場を待つ多くの開発者が列をなしている。奥まで続く人、人、人。1,000人近くはいそうだ。記者たちの中には行列や建物を撮影する人や、早々に建物内に入っていく人もいた。

朝早くから並ぶ参加者たち。ブロックを挟んで写真左手側にも行列は続く

筆者も10分程度会場外を撮影したのち中に入ると、ドアはまだ開場しておらず、エントランスに世界中の記者たちがぎゅうぎゅうに集まっていた。入り口そばにはパンやフルーツジュース、コーヒーなどのケータリングが用意されていたが、味は普通で特に人気はなさそうだった。

ギリギリまで寝ていてホテルで朝食をとれなかった筆者みたいなグータラ人間にはありがたい

クロワッサンとコーヒーを口に押し込み、ホールに続くドアの前に待機している日本の記者グループと合流する。確保できる席の明暗が分かれるので、開場前の場所取りは非常に重要だ。ドアの前に陣取れれば、写真が撮りやすい人気の席を確保しやすい。反対に、場所取りに失敗して入場が遅れれば、後方や端の席になってしまいいい写真が撮れない。WWDC開幕前に、世界の記者陣による戦いはすでに始まっている!

さらに記者たちは、待ち時間の間も発表内容の予想をしたり、Twitterから現地をレポしたりと大忙しだ。周りではいろんな言語(主に英語)の人たちが同じようにわいわいガヤガヤ盛り上がっており、大声で話さないと声が聞き取れない。低血圧の筆者も、エントランスで少しずつボルテージが上がっていった。

ぎゅうぎゅう詰めのエントランス

立ったまま待つこと1時間弱、急に左手のほうで人の列が動き始めた。しまった! 私たちが待っているドアより早く、左手のドアが先に開いたようだ。慌てて私たちも移動し、足早に会場内に入っていく。

そこで筆者は目の前に広がる光景に圧倒された。アリーナ席とスタンド席が用意されるほどの会場の広さ。前方にどーんと設置された巨大なワイドスクリーン。照明の暗さと会場内に流れるApple Musicのラジオステーション「Beats 1」。各所に配置された中継カメラ。下手2階のスタンド席にはクレーンカメラも確認できた。ソフトウェアの開発者イベントというより、アーティストのライブ会場そのものだ。

ディスク化されるアーティストのライブかな?

プレス席にはアリーナ席の前列ブロック中央と前列下手ブロックがあてがわれた。全席自由席のため、エントランスでの待ちに続き、ここでも取材陣による静かなる場所取り合戦が行われた。

開場から1時間後の10時ちょうど(日本時間14日2時)、ティム・クックCEOの登場を皮切りに基調講演が始まった。いよいよWWDCの開幕だ。

内容を振り返りたい人は各所レポートをご参考にどうぞ

内容は大量のレポート記事が上がっているのでカット。2時間強の講演が終了すると、記者グループは余韻にひたる間もなく、シャトルバスに乗り込みホテルに帰る。バスの中ではさまざまな言語で基調講演の感想合戦が行われているようだ。私たち記者はこれからが本番だ。

ホテル内の簡易的な昼食会場で軽く食事をとると、三々五々に部屋へ戻り仕事へ取りかかる。筆者は時差ボケによる眠気でベッドの誘惑に勝てそうもなかったので、昼食会場へ戻り原稿を書き始めた。向かいの席には日本人編集者のIさんもいた。周りを見渡すと、MacBookやMacBook Airユーザーが多く、Windows PC使いは見渡すかぎりゼロだった。

前編でも言及したように、筆者は新型MacBookのローズゴールドを持って行った。Retina Displayなのでフォントのにじみが少なく、何時間でも文字をタイプしていられる恐ろしいディスプレイだ。キーボードはぐらつきにくいバタフライ構造を採用しており、キーは17%大きく、40%薄くなって操作性が向上。タイピングした時の「カタカタ」という打鍵感が車のウインカー音のように心地よい。

ホテルの昼食会場で原稿を書いている様子。周りのテーブルでは各国の記者が同じように仕事をしていた

しこしこ原稿を書いていると、向かいの席の日本人編集者Iさんが突然欧米系の男性記者に声をかけられた。一瞬緊張が走ったが、どうやらSDカードリーダを借りたかったようで、Iさんは快く貸し出していた。しばらくすると男性が返しに戻ってきて、「ありがとう。君なら持っていると思っていたよ」とお礼を伝え、Iさんもイイヨーと親指を立てて応えていた。なぜ彼ならSDカードリーダを持っているだろうという判断に至ったかは謎だが(単なるリップサービスか)、原稿に追い詰められているなか、国際交流の一端を垣間見た気がして心が癒やされた。

しかし眠い。眠気が取れない。サンフランシスコに到着して約1日、時差ボケがまったく治らない。海外取材の最大の敵は時差ボケだ。頭がボーっとするなか、4つのプラットフォームと関連する発表内容を分析し、数千字にまとめ、当日中に仕上げなければならない。1記事上げればいい筆者はまだましで、夜通しかけてテーマやメディアごとに数本を一気に書き上げる人もいる。ベテランのジャーナリストは10年、20年とこんな大変な取材を続けているという。

日本は日本で、深夜2時からストリーミング配信を視聴し、寝不足のまま私たちの原稿を速報で編集・掲載してくれる編集者がいるのだから頭が上がらない。みんな命を削って仕事をしているんだ。