既報の通り、東芝とウエスタンデジタルコーポレーション(以下、ウエスタンデジタル)は7月15日、三重県・四日市市の半導体工場において、新・第2製造棟(クリーンルーム)の完成を祝う竣工式を執り行った。

【左】竣工式を迎えた四日市工場の「新・第2製造棟」。東芝とウエスタンデジタルは「新第2クリーンルーム棟」、「N-Y2」などとも呼称している。鉄筋2層5階建で建屋面積は27,600平方メートル。【右】新・第2製造棟のテープカットには12人の関係者が参加した

当日はメディア向けの記者会見や工場見学、関係者を集めての鏡開きなども実施。ここでは記者会見を中心にレポートする。なお、四日市工場は、3次元NANDフラッシュメモリの生産能力を引き上げるべく、2014年9月に新・第2製造棟の建設に着工した。起工式の様子はマイナビニュースでも取り上げている。

記者会見の主旨は、(1)東芝のメモリ事業における今後の方針の確認、(2)四日市工場ならびに新・第2製造棟の位置づけと使命、(3)2015年10月にサンディスクを買収したウエスタンデジタルが、東芝とサンディスクの提携関係を継続することの確認。以上の大きく3点だ。それぞれ、東芝の綱川智 代表執行役社長、成毛康雄 代表執行役副社長 兼 ストレージ&デバイスソリューション社 社長、ウエスタンデジタルのスティーブ・ミリガンCEOが語った。

東芝 代表執行役社長の綱川智氏

東芝は3月に実施した2016年度事業計画説明会において、「エネルギー」「社会インフラ」「ストレージ」という3つの事業分野へ集中、徹底すると公言した。そのストレージ事業において、特に最重視しているのがフラッシュメモリだ。

フラッシュメモリは約10%~30%の営業利益率を安定して確保できる事業であり、市場が広がったスマートフォンやSSDをはじめ、データセンター向けなどのニーズ拡大が見込まれる。競争は熾烈ながらも、戦っていく価値のある市場と判断したのだろう。

そんな中で注目されるのが、東芝が「BiCS FLASH」と呼んでいる「3次元構造のNANDフラッシュメモリ」(以下、3次元NANDフラッシュ)だ。従来の2次元(プラナー)NANDフラッシュメモリとは異なる構造を持ち、メモリセルアレイを縦方向に積層化することで、大容量化や書き込み速度の向上に有利、そして省電力化にも優れた性能を誇る。

東芝の代表執行役副社長 兼 ストレージ&デバイスソリューション社 社長、成毛康雄氏

東芝では、フラッシュメモリの2016年度~2018年度の年平均成長率(CAGR)は13%程度、2018年度の売上高は9,500億円、営業利益は10%以上(950億円以上)と見込んでいる

3次元NANDフラッシュは、サムスン陣営、SKハイニックス陣営、インテル&マイクロン陣営、そして東芝&ウエスタンデジタル陣営の4者がしのぎを削る市場となっている。東芝としては、ここで一歩抜きん出て市場をリードする立場に立ちたい(現在はサムスン陣営が先行している)。

こうした背景から、東芝とウエスタンデジタルにとって、フラッシュメモリの生産拠点である四日市工場は、非常に大きな存在感を持つ。両社はNANDフラッシュメモリの生産を開始した2002年以来、四日市工場に数兆円規模の投資を実施してきた。今後も市場環境を見極めつつ、東芝は2018年までの3年間に約8,600億円、ウエスタンデジタルは50億ドルを追加投資すると明らかにした。

東芝は、営業キャッシュフロー、社内資金、リースなど活用して、3年間で約8,600億円の設備投資を計画

サンディスクを買収したウエスタンデジタルの立ち位置は

ウエスタンデジタルのスティーブ・ミリガンCEO

東芝のメモリ事業を語る上で欠かせないのが、パートナーであるウエスタンデジタルだ。ウエスタンデジタルが買収したサンディスクは、東芝と15年来のパートナーシップを続けており、12世代に及ぶアーキテクチャの更新を共同で経験してきた。これは世界の半導体アライアンスにおいて、もっとも成功した事例の一つとなっている。

ウエスタンデジタルはこのアライアンスを重視し、世界最大のフラッシュメモリ工場での共同生産に同意。東芝とのパートナーシップの継続を通じて、フラッシュメモリ市場の拡大・発展に貢献していく。ウエスタンデジタルは2002年以降、日本に110億ドル(約1.1兆円)の累積投資をしてきたが、先述したように今後も50億ドルの投資準備があると述べ、東芝とのアライアンスが重要なものであることを強調した。

余談だが、会見後の質疑応答で、東芝の不正会計問題に関するウエスタンデジタルの認識や影響という厳しい質問が上がった。スティーブ・ミリガンCEOは「危険な質問だ」と軽く笑みを見せつつ、「もちろん把握しており、多方面からの精査を終えて、提携関係を続けていくべき信頼できる企業だと判断した」と述べた。

サンディスクの買収によって、ウエスタンデジタルは垂直統合モデルと、幅広い製品群を得た

ウエスタンデジタルは日本国内に300mmの製造工場を4カ所持ち、約2,400人の従業員がいて、2002年以降、110億ドル(1.1兆円)の累積投資をしてきた。東芝とサンディスクのパートナーシップも、ウエスタンデジタルとして継続する。スティーブ・ミリガンCEOは、日本では非常に高いスキルを持った社員を獲得できると語る