年に1度、メディア芸術作品の顕彰を行う「文化庁メディア芸術祭」。2016年はこの芸術祭が始まってから20周年の節目を迎えたことを受け、例年の受賞作品展に加え、「文化庁メディア芸術祭 20周年企画展―変える力」が10月15日~11月6日にかけて開催される。
開催3カ月前の7月14日、同展の開催発表会見において、第18回に受賞した筋電義手「handiii」を開発したexiiiによるプレゼンテーションが行われた。受賞から2年、既存の義手の常識を大きく覆し注目を集めたプロダクトは、どのような進化をたどってきたのだろうか。
今回は、exiii(イクシー) CCO・小西哲哉さんに、筋電義手のオープンソースプロジェクト「HACKberry」の現状について聞いた。
プレゼンテーションでは、exiiiが取り組んでいる義手のオープンソースプロジェクト「HACKberry」の紹介に加え、同社の義手開発に協力しているユーザーの森川さんが実際に筋電義手「handiii」を装着し、握手するデモンストレーションも行われた |
――これが、プレゼンテーションでお話されていた「HACKberry」ですね。
デザインデータやソースコードをオープンソースとし、使うユーザーが自身に合わせたカスタマイズを可能とした義手「HACKberry」。メディア芸術祭で贈賞されたコンセプトモデル「handiii」と同様に、既存の義手の多くが人間の肌に似せているのとは逆で、メカニカルでシャープなイメージを押し出したデザインとなっている |
ええ、そうです。HACKberryの初期バージョンと、森川さんの要望で変更を加えたものを持ってきました。今回、プレゼンテーションでは受賞作でもあるhandiiiを装着していただきましたが、森川さんが普段の生活で使用しているのはHACKberryです。
森川さんに使ってもらうことによって得られる気づきはとても多いんですよ。分かりやすいのが親指ですね。
HACKberryではつまみ動作を重視していて、細いものや薄いものをつまめるようにしたんですけれど、最初のバージョンの形状だと、固定された親指がつまむ動作の邪魔になってしまうんです。森川さんから「物をつまむ時、左手で親指の角度を変更したい」という声をいただいて、それができるように改良しました。
また、ソケットは最初のモデルのものでなく、森川さんの腕の3Dスキャンデータから出力してつけました。ただ、これは3Dプリンタで出したままの状態で、あまりきれいではないので、これから直していきます。
――sxswなど国内外の展示会をはじめ、いろいろなところで顕彰されたり、展示されたりする機会の多いhandiii(およびHACKberry)ですが、メディア芸術祭20周年展であらためてexiiiの取り組みを発表されることにした経緯は?
この展示について、僕らのほうからお願いして展示の場をいただいたというよりは、今回の展示のテーマ「変える力」というテーマに即した歴代受賞作のひとつとしてお声がけいただいた、という流れですね。
義手業界を変えたいという僕たちの思い、そして森川さんのようなユーザーと健常者との関係性を変える力が(exiiiのプロダクトに)あると思っていただいたのかな、そうであればいいなと思っているのですが。
第18回メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞した義手のコンセプトモデル「handiii」。非常に高価で普及率の低かった義手を3Dプリンタ活用により安価に制作(材料費3万円)し、デザインもユーザーが選べるというコンセプトが評価された |
展示がはじまる10月ごろには、世界のどこで、どんな義手を作ったのかという事例の紹介を、今回のプレゼンテーションより件数が増えた状態で出せると思います。プロダクトの性質上、やはりモノを借りてくることは難しいと思うのですが、作った方達たちは映像などでこちらに届けてくださるので、それらをたくさん展示できればと思います。
――HACKberryプロジェクトの制作事例について、プレゼンテーションでお話になった以外ではどんなものがありますか?
事例というか、Twitterで「exiii」「HACKberry」などのキーワードで検索すると、日々ヒットする件数が増えているような状況です。海外の方が、自主的に作ってくれる人が多い印象です。
――感覚値でどの国が多いなど、傾向はありますか?
アメリカの方が多いような気はします。ですが本当に世界中に散っていて、ロシアや中東あたりからの投稿もありますし、ヨーロッパ、ドイツ、ポーランド、イギリスなどでも取り組んでくださる方はいます。
そうですね、中国の方は多いかもしれません。中国、台湾、韓国、タイも多いです。
――国内での取り組みは何か行っているのでしょうか?
国内に関して言えば、上肢障害者の方々が設立したNPO法人「Mission ARM Japan」と一緒に、電動義手の普及活動を行っています。社会問題の解決にテクノロジーをもって取り組む非営利団体を支援するGoogleの取り組み「Google Impact Challenge」から金銭的な支援をいただき、それを活動資金としています。
日本国内での義手の普及率はわずか1.7%とお話しましたが、現行のものより安価な義手を広めることで、普及率を向上させ、欧米並みの数値にあげていこうとしています。やはり高価な義手では普及率は上がっていかないので、義肢装具士さんと一緒になって、上肢障害者の方と一緒に義手を作っていくワークショップなど、地道な活動を行っています。その他、広島国際大学の義肢装具士のたまごの方々との取り組みも行うなど、地方でもプロジェクトを展開しています。