警視庁との合同捜査に"S"の黒岩(中村獅童)と共に参加。ヤクザから購入した拳銃の受け渡しに立ち会うが……。

どこかで期待してしまう陰謀論

――北海道警からの問い合わせや、抗議の連絡はないんですか。

共同配給の東映さんからは『県警対組織暴力』の撮影の際に広島県警から強い抗議があったと聞いていたので、気にはしておりました。ですが、幸いなのか何なのか。クレームは一切いただいておりません。

――これからかもしれないですね。

そうですね。抗議はともかく、仮に怪文書などが届くようなことがあったら、すぐにフェイスブックとツイッターで速やかにご報告させていただきます(笑)。

――しかし、警戒しすぎのような気が……。

何を言ってるんですか。僕なんか、痴漢保険に入りましたからね。電車内では何が起こるか分かりませんから。もちろん、満員電車では常に両手を上に。いや、本当に冗談じゃありませんよ? そういう意味での細かいことも、本当に気を使いました。勝手な陰謀論ですけどね(笑)。考えすぎだとは分かってます。ただ、制作陣はそれほどの精神状態だったんです。

――確かに重いテーマではあります。いろいろと考えさせられる、悲しく切ない結末でした。

そうですね。僕らも道民の方、特に北海道警の方にどういうふうに受け止められるのか、正直分かりません。ただ、実際に警察が悪く描かれる作品もたくさんあるわけですし、それがフィクションであれノンフィクションであれ過去にはそういう作品が数多くあったわけで。

そう言い聞かせつつも、どこか気にしてしまう……。気にしつつも、「何か起こらないかな」みたいな変な期待もあったりして……。

不正に押収した拳銃はロッカーなどに入れ、匿名で自ら通報する。

元ヤクザ"S"との接触

――すすきのでは過去に"S"だった人物とも接触されたそうですね。

はい。私が会った方は元ヤクザの方で、今は辞められて飲食店を経営されていました。その方はお会いしても、外見上は一般の方と区別がつかないかもしれません。それぐらい柔和で、温厚な方。当時の稲葉さんとの関係や、なぜ"S"を辞められたのかなどを伺いました。

―― 一般人に戻られているわけで、ご本人としては触れられたくない過去だったりしないんですかね。

僕達もそこまでは深くは踏み込まなかったんですが……稲葉さんのことを変わらず「オヤジ」とおっしゃっていたんですよね。ここは推測ですけど、ご自身の過去をそんなに後ろ暗くは感じていらっしゃらないんじゃないかなと。

稲葉さんも覚せい剤を打ち、銃器関連の違法捜査をして捕まりましたが、服役をされて罪をきちんと償っています。とある芸能人の方のようになかなか社会復帰しづらい世の中になっていますが、正しく罪を償っている人が復帰できない社会はおかしいと思います。稲葉さんがおっしゃっていましたが、元"S"の方も含めこの映画を楽しみにしてくださっている方がたくさんいらっしゃるそうです。

主演の綾野剛は、"S"役の中村獅童、YOUNG DAIS、デニス・植野との撮影について、「あの4人での時間は、ずっと時を止めて見ていたいと思えるぐらい、ものすごく良い関係性だと思います。もちろん、役の上では利害関係をもっていますが、それを忘れた時間のほうが圧倒的に多かったんじゃないかなって思います。あの3人のことを思うと、どこか胸が熱くなるんですよね」と振り返っている。

――北海道の劇場が元"S"の方で埋めつくされるかもしれませんね。

だといいんですが(笑)。

――制作サイドは心労が絶えなかったようですが、撮影現場はかなり盛り上がっていたと聞きました。

「これだけ強度のある作品は、今の時代、コンプライアンスのこともあって簡単に撮れないと思う」と語る綾野。「間違いなく」特別な1本になったという。

今まで僕が経験した映画の中で、いちばんキャストが笑っていました。白石監督も初日から笑いっぱなし(笑)。撮影初日の最後のシーンが、おばあさんが覚せい剤を打つシーンだったんですが、みんな「ひどい映画を撮るなぁ」と言いながら笑っていました(笑)。白石監督の言葉を借りれば、「不道徳な映画を撮っている」。そんな、作り手の興奮があったのかもしれません。

この映画には、脚本を面白いと思った方々が集まっています。ただ、その脚本の本当の魅力は、撮りはじめてみないと分からない。だから、撮影初日には多くの関係者が集まりました。みなさん、期待と不安が半々だったと思いますが、撮影初日にお越しになった方は一様に安心しれていたような気がします。「こんなとんでもない映画を作ってくれてありがとう」という面持ちでした。

――試写室もかなりの混雑でした。どのような反響か楽しみですね。

事件になればいいと思っています(笑)。

(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会