ハーパーコリンズ・ジャパンのエントランス

「2000年代半ば頃、それまで柱にしていた『ハーレクインシリーズ』『MIRA文庫』だけでは業績の伸びが期待できず、新たな事業の必要性を感じました」。そう静かに切り出したのは、ハーパーコリンズ・ジャパン 取締役 副社長 鈴木幸辰氏だ。

ハーパーコリンズという社名にあまり馴染みがない方もいるだろうが、ハーレクイン社といえば“ピン”とくる方も多いのではないだろうか。

ロマンス小説だけでは成長が見込めない状況

2015年4月に米ハーパーコリンズにより、ハーレクインのカナダ本社が買収され、日本法人の社名もハーパーコリンズ・ジャパンに変更された。そして同年9月、「週刊ビジュアル江戸三百藩」というパートワーク誌(分冊百科)が出版された。

ロマンス小説の老舗で、その分野でもっとも名がとおっている旧ハーレクインが、江戸三百藩という“歴史モノ”の王道、しかも単発ではなく分冊百科というリソースのかかる分野になぜ足を踏み入れたのか……。以前から気になっていたので取材をお願いしたところ、鈴木氏は冒頭のように語り出した。

ハーレクインのロマンス小説は1980年代から刊行され、30年以上の歴史を誇る。当時は同シリーズのテレビCMが盛んに放映され、多くの読者を獲得した。だが、鈴木氏によると当時からの読者がまだ残っている一方、離脱した読者も多く、新規顧客の獲得もはかどらなかったそうだ。そこで、新規事業へと視線が移っていった。

まず、同社が手をつけたのがロマンス小説のデジタル化だった。2000年代半ばといえば、まだiPadといったタブレットは姿形もなく、一部のユーザーが電子書籍版の写真集などをパソコンで購入していたような時代だった。そんな電子書籍の黎明期からロマンス小説をデジタル化し販売するのは、非常に大きな“賭け”だといえよう。だが、この賭けが功を奏し、現在では同社の収入の5割を占めるまでの主力事業に育っている。

ロマンス小説のデジタル化とほぼ同時に進められたのが、小説の独自制作によるコミック化で現在は「ハーレクインコミックス」として独り立ちしている。さらに当時、ライトノベルという出版分野が目立つようになり、その存在感をグングンと大きくしていた。その流れに逆らわず、既存のシリーズに加え、ポップでライトな表紙・文体の文庫を投入。比較的若い世代の読者獲得に成功した。

ハーレクインの電子書籍ページ

既存シリーズに加え、ライトノベルやコミックに進出した

つまり、ハーレクインシリーズの読者離れという難局を、既存資産をデジタル化すること、独自にコミック化、ライト化することで乗り切ったことになる。そして2010年頃になると、また大きな潮目を迎える。