旅客のストレスを解決できるか?

「手荷物の最終目的地までのスルーチェックイン」に関して、現時点では各社間でこれを「行わない」としているようだが、これは旅客にとっては大きな障害となる。乗り継ぎ地で常に手荷物をピックアップし、預け直すだけでなく、国境またぎのケースが多いため、乗り継ぎ地での入国・再出国が必要になるためだ。

手荷物を最終目的地までスルーできれば、飛行機同士の接続可能時間を短くでき、なにより、利用者満足につながる

混雑時間帯にもよるが、イミグレーションで長蛇の列になることも十分あり得るため、安全を見て接続可能時間は長くならざるを得ず、目的地までの総所要時間は膨れあがる。スルーバゲッジの場合は到着便を受け持つ航空会社が出発便の会社まで手荷物を運搬し、旅客は乗り継ぎエリアでゆっくり待てばいいので、LCC利用旅客がこの違いに大きなストレスを感じ、運賃の安さを帳消しにしてしまうこともあり得るだろう。

これを解消するには、各社がそれぞれグランドハンドリング会社と新たな契約を結んで手荷物をケアしなくてはならない。この新たなコスト負担を避けたいということなのだろうが、上記の旅客の不便を考えると、総額での低運賃優位を維持できるのであれば、「スルーバゲッジハンドリング手数料」を新たに賦課してでも解決すべき問題ではないかと思われる。

アライアンスを機能させるための方策は?

これらの問題点は加盟各社もおそらく十分認識していよう。ABBのシステム運用コスト等の負担は発生するにしても、アライアンス組成~加盟~運用に関わるコストを極力抑えて運営することができるのであれば大きなロスを招くこともないと考え、「現在個別の販売・ハンドリングをしているレベルから悪くなることはない」「自社就航地以外でのホワイトスポット(空白域)での売り上げが少しでも増えればそれで良しとする」という割り切りをして、まず提携に踏み切ったとも考えられる。

事実、「バリューアライアンス事務局」は現在存在していないとのことで、問題が起これば各社間で解決を、という構造になっていると聞く。その一方で、「販売箇所の拡大」といっても、東南アジア各国の利用者がアライアンス発足により他国の航空会社サイトにすぐにアクセスするようになるかというと、サイトの言語の問題や彼らの日常の予約行動を考えれば劇的な変化は考えにくい。

そうなると、現在東南アジア地域における予約行動の主流のひとつである、SkyScannerのような「メタサーチ」にうまく乗せる必要がある。ひとつの路線にいくつまでの乗り継ぎ航空会社を設定できるのかというシステムの制約もあり、ABBのサイトで一括予約できる乗り継ぎ路線がうまくメタサーチに搭載できるかが、今後アライアンスを外に大きく広げるための課題にもなろう。

他方、外部予約チャネルへの展開は加盟エアライン各社の判断に任されているとのことだ。メタサーチは多くの比較サイト情報を集約して旅客に選択させる方式なため、結果的に旅行会社やOTA(オンライン旅行会社)からのブッキングとなる。ABBのシステムを経由しなかった場合、アライアンス内の「接続保証」が適用されないケースも発生するので、各国の事情を注意深く見極めた判断が必要となろう。

バニラエアとしては、香港/台湾をベースとする航空会社の加盟は望ましい戦略となるだろう

バニラエアの立場で考えてみると、日本からの目的地が一挙に増えるかというと、前述した乗り継ぎ利便や加盟航空会社の国籍の関係で、バニラエアが就航している香港/台湾から先のバリエーションが少ない。これを改善するには、「香港/台湾をベースとする航空会社の加盟」「既存各社の第五の自由を活用した香港/台湾からの第三国への直行便の開設」等が有力な打ち手と考えられる。特に、タイガーエア台湾の加盟は以遠ネットワーク拡充に有効と思われるが、日本=台湾間での直接の路線競合が発生するジレンマもある。

加えて、バニラエア自身がマニラに就航すれば、アライアンス加盟社の中でフィリピン国内から最も多くの国に就航しているセブパシフィックのネットワークを活用できるという将来の広がりもある。またバリューアライアンス全体としては、カバーする中国国内地点を増やすため、中国LCCの参画も求められるところだ。

このように、バリューアライアンスは解決すべき課題も少なくない反面、「ローコスト・アライアンス」という新しい概念で、予想を超える販売効果や認知度の向上が図れる可能性も有していると言える。事務局がない中でどのように新たに出てきた課題の調整、解決を図るかは容易ではないだろうが、まずは旅客クレーム等への的確な対応を行う等によって旅客サイドからネガティブ要素をできるだけ排除し、多少の手間やコストをかけてでもアライアンスの質的向上を図っていくような各社の協調と努力が望まれる。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上におよぶ航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。