マクドナルドが失った売上高は業界内で還流せず

日本マクドナルドの業績をみると、2011年12月期から2015年12月期までの5年間で全店売上高が1,600億円弱の減少となっている。この5年でマックが失った巨額のハンバーガー代は、いったいどこへ消えたのだろうか。モスフードサービスの業績をみると、2011年度からの5年間はおおむね右肩上がりに売上高を伸ばしているものの、増加額は100億円弱に過ぎない。マックの受け皿はモスだけではないが、マックから離れた1,000億円を超えるハンバーガー代が、全て同業に流れたとは考えにくい。「マック離れ」を起こした顧客の多くは、おそらく他の外食産業に流れているのだろう。

マクドナルドの全店売上高は急激に減少。モスバーガーは右肩上がりだ(グラフは両社の発表資料から筆者作成)

日本フードサービス協会の調べによると、外食産業市場は2011年から2014年にかけて右肩上がりで拡大している。一方、日本フランチャイズチェーン協会の調査によれば、ここ数年でハンバーガーチェーン全体の売上高は大きく減少している。

もちろんハンバーガーを取り扱っている個人商店も多いので、チェーン店に限った調査結果を使っても正確な分析は困難なのだが、こうして2つの統計を比較してみると、消えたハンバーガー代が他の外食産業に取り込まれているとの推測もあながち間違っていないような気がしてくる。モスフードサービスの千原氏が、「(昔のマックと)同じような(家族連れがシェアして食事するという)光景を某うどんチェーン店で見かけるようになった」と感想を漏らしていたのも印象的だった。

外食産業の市場規模が徐々に拡大しているのに対し、ハンバーガーチェーン全体のの売上高は落ちている(グラフは日本フードサービス協会と日本フランチャイズチェーン協会の発表資料から筆者作成)

ハンバーガー再評価のチャンス、試されるモスの愚直な姿勢

日本マクドナルドの業績不振により、外食戦争では厳しい戦いを強いられているハンバーガー業界だが、海外勢の参入が相次ぎ、グルメバーガーブームが起こっている現在の状況は、業界を活性化させる大きなチャンスでもある。「道ばたのバーガースタンド」を志向するシェイクシャック、「セクシーでエッジー」というブランドイメージを打ち出し、若いバーガーファンの需要を開拓しようと目論むカールスジュニア、「BurgerLove」(バーガーラブ)路線で再びヒット商品を連発し始めたマックなど、多様なプレイヤーが独自のカラーを打ち出して勝負している現状は、ありふれたメニューになりつつあったハンバーガーの復権を図る好機だ。

ぶれないメニュー開発と品質へのこだわりから感じられるモスの「愚直さ」は、群雄割拠のハンバーガー市場において同社最大の武器となる。作り置きをしないことや、1つ1つの野菜を店舗で仕込むといった一見すると非効率的な手法こそ、業界の中で同社を特別な存在にしている要因だ。「思いつきで変わった商品を出すのが差別化だとは考えていない」という千原氏の言葉が、同社の考え方を端的に表している。グルメバーガーブームのなかにあっても、品質重視の愚直な姿勢を貫いていくことこそがモスバーガーの戦略だといえるだろう。