今年の4月、パナマの法律事務所からの文書流失が発覚し、タックスヘイブンに対する世間の関心が高まっているが、国内でも、平成28年度税制改正大綱によって「移転価格文書 作成義務化」が決定し、企業はその対応を迫られている。
こういった状況を受け東洋ビジネスエンジニアリングは6月10日、「ついに義務化されたBEPS対応の移転価格文書作成」と題してセミナーを開催したので、今回レポートする。講師を務めたのは、BDO税理士法人 移転価格担当パートナー 田村敏明氏だ。
BEPSとは?
BEPS(Base Esosion and Profitf Shifting:税源浸食と利益移転)は、企業が税金の安い海外子会社などに利益を移転し、節税することで、OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)を中心に各国税務当局はこれに対応するため、協調して対処しようとしている。日本の「移転価格文書 作成義務化」は、それに沿ったものだ。BEPS自体は合法的な租税回避だが、税の不公平感もあり、OECDを中心にこれを防止する方向に動いている。
田村氏は、「会計税務分野の流行語大賞があれば、BEPSがNO.1だ」と述べ、BEPSの最近の注目度の高さを指摘。ただ、日本はすでにタックスヘイブンを規制する法律により、海外子会社を親会社に合算することが求められているため、BEPSは通常の日系企業であれば、あまり問題にならないという。とはいうものの、該当企業には移転価格文書の作成義務が発生するため、これに対応する必要がある。
同氏によれば、作成義務が発生する文書は、
(1)マスターファイル:グループ全体に共通する基本情報(グループの組織構造、事業内容等)
(2)ローカルファイル:各国に所在する事業体が行うグループ内取引情報(移転価格算定方法等)
(3)国別報告書 CBCレポート:グループ内事業体の国別利益配分と税負担の状況
の3つだという。
(1)と(3)については、連結売上げが750百万ユーロ(約1000億円)以上の企業に提出が義務づけられ、(2)に関しては海外子会社との取引が50億円以上、または無形資産取引が3億円以上の会社に作成義務(提出はなく、自社保管)がある。
ただ田村氏は、海外子会社との取引が50億円未満でも、50億円に近い企業や海外子会社の売上高営業利益率が10%を超えるような企業は、今後提出を求められる可能性もあるので、作成することが望ましいとアドバイスした。
また今後は、まずマスターファイルを作成し、そこから各子会社のローカルファイルを作る方向になっていくため、ローカルファイルのみ作成が義務付けられる企業でも、あらかじめグループ全体に共通する基本情報を決めることが望ましいという。
作成義務化が開始されるは、(1)と(3)が2016年4月1日以降の事業年度から、(2)は1年遅れの2017年4月1日以降の事業年度からとなる。