ビーコン活用の打診を受けたリクルートテクノロジーズ ITソリューション統括部 アドバンスドテクノロジーラボの加藤亮氏は、当時を振り返り、「もともとビーコンを使って何かできないかと考えていました。Googleがビーコンのデータフォーマットを統一しようという取り組みを行っていて、URLを吐き出すという仕様に合わせて実際に作ったりしていました。標準ブラウザのようなものがあれば、いろいろな店のビーコンデータを受信できるようになるという環境ができます。URLですから、FacebookのURLを配布してプロフィール交換もできるわけです。そういう研究からの発展に注目してもらった形でした」と語る。
加藤氏の所属するアドバンスドテクノロジーラボは、新技術の使い道を考える部隊だ。その中で通信やプロトコルの専門家である加藤氏は、Bluetoothビーコンの研究開発を行う中で、そのアウトプット先を探していた。
「まだ課題のある技術なので、内部に限定された環境でテストするというやり方ができるのはいいと思いました。また半期ごとに目標を定めるのですが、打診のあった2015年9月は、ちょうど10月からのミッションを定めなければいけいないタイミングだったので、それを目標にしようということにしました」(加藤氏)
当初、要望としては会議室にいる人が誰なのかがわかればよいというものだったが、それでは初対面の人との会議のときしか使われないシステムになってしまう。そこで追加機能が考えられた。それが出会った人に対するブックマーク機能だ。
アプリで取得したプロフィールにはメールアドレスや電話番号といった連絡先が記載されている。名前のほかに本人が記載できる簡単なプロフィール欄があり、何が専門なのかもわかる。これを頼りに後日の連絡を取りやすくする仕組みだ。
「ファーストコンタクトを支援するとともに、電話やメールといったセカンドコンタクトにつながるようにしようと考えました。また、『この件はこの人に聞くといいよ』と紹介できる機能も付けました。理想をいえば、そこからチャットができる、スケジュール管理ができるという機能もほしいところですが、今回はアプリ側には割ける時間が限られていたため、機能を絞って開発しました」(加藤氏)
ファームウェア設計からアプリ/ウェブ開発まで一人で担当
開発をほぼ加藤氏が一人で行ったため、細かな仕様は、開発しながら決定された部分が多いという。本来の専門はプロトコルやネットワークで、今回のプロジェクトでいえばBluetoothタグのファームウェア作成などになるのだが、実際にはスマートフォンアプリの設計などもすべて担当した。
「ビーコンの外装を含むハードウェア自体は専門の業者の方と組んで作成しました。私が担当したのはファームウェアの部分です。先にハードウェアを作らないと期日に間に合わないので、まずはそちらを仕上げてから、1月下旬あたりからアプリとWebを合わせて作ったような形です」(加藤氏)
たたき台となるものが仕上がったのが2016年3月。社員への配布方法や周知方法の考案を含めた社内的な事務手続きも加藤氏自身が行いつつ、人事部で小規模なテストを行ってから、4月下旬には全社への展開が始まった。
「社員の方にはIDとパスワードやアプリ取得について記載したメールを送るとともに、社内便でビーコンとマニュアルを配布しました。利用するスマートフォンは社用として配布しているiPhoneが基本ですが、個人所有のiPhoneから利用してもかまいません」(加藤氏)
配布されたビーコンには社員番号等とは異なるユニークIDが埋め込まれている。社員のプロフィールはビーコン内に保持しているわけではなく、利用時にこのユニークIDでシステム上に登録されたプロフィールを引き出す形だ。