コードシェア争奪は出資動機になりうる
とはいえ、117億円の出資案件である。これにより、ちまたで言われているようにベトナム航空の日本での提携相手(コードシェア、ハンドリング・販売協力等)は、JALからANAに替わることになると思われるが、このような提携相手の変更は航空業界ではある意味、日常的に行われている。今でこそ、各航空会社が所属するワールドアライアンスの自然の縛りが働く環境にあるものの、ベトナム航空が日本に参入した際にはコードシェアを含む協業相手を選定する上で、JALとANAが熾烈な提携獲得競争を行い、JALが提携相手となった経緯がある。
また、話題性が大きかったのがワールドアライアンスに属さないエミレーツ航空の2002年の日本参入だ。当時はJALですらアライアンス加盟を決めていなかった中で、日本と中東を結ぶ基幹エアラインを巡ってJALとANAが争奪に凌(しの)ぎを削った。当初、ANAが優勢だったものを、JALが「固定座席の一定数買い取り」という条件を提示し、最終的にJALがエミレーツ航空との提携を勝ち取ったことはまだ記憶に新しい。
その後の中東との提携関係は、同じUAEから参入したエティハド航空がANAと提携、カタール航空は所属するスターアライアンスの関係でANAと提携していたが、2013年の同社のワンワールドへの加盟によってJALとのコードシェア関係に移行するなどの変遷をたどっている。
日本のフルサービスキャリア(FSC)である両社にとってのUAE2社の位置づけは、ジョイントベンチャー(JV)パートナーとの関係にも影響する。欧州に目をやると、ブリティッシュ・エアウェイズ(JAL)やルフトハンザドイツ航空(ANA)等が中東各社との厳しい競争関係にあり、南米市場においては、米・JVパートナーであるアメリカン航空(JAL)やユナイテッド航空(ANA)との関係でも、同様に難しい位置に来ているのが現実だ。この他にも、マレーシア航空(ANAからJALへ)やニュージーランド航空(JALからANAへ)がコードシェアパートナーを変更している。
このように、歴史的にJALとANAとの間で提携を巡る長い主導権争いがあることを踏まえると、コードシェア相手の争奪は今回の出資動機のひとつであったことは想像に難くない。これまでは提携条件を巡る争奪戦の様相だったものが、今後は出資関係という新たな要件も絡み、今後どのように変化していくのかは注視する必要があるだろう。
コードシェア=アライアンスパートナーでないケースも
確かに、これまではワールドアライアンスの暗黙の縛りが基本的な流れをつくってきた。しかし、建設業界でいう"既存不適格"ではないが、アライアンス関係ではどうしても説明できないコードシェア関係も、いまだ日本には存在している。その最たるものが、同一アライアンスパートナーが同じ国にいながら、他のアライアンスともコードシェアをしている状況にある、タイ国際航空の事例である。
日本にFSCのメンバーがいないスカイチームに属する航空会社ですら、JAL・ANA両方とコードシェアを行っている航空会社はない。一方、スターアライアンスメンバーのタイ国際航空は東京=バンコクはじめ、主要路線では同じスターアライアンスメンバーであるANAとコードシェアを行っているが、バンコク=関空/福岡線ではJALとコードシェアをしており、ANAとは行っていない。「昔、両社がナショナルフラッグキャリア同士だった頃の提携関係の名残」という解説も聞くが、それをワールドアライアンス関係の整備された今でも続ける必然性は不明だ。
別の視点で見ると、タイにおいてはバンコクエアウェイズ(PG)がJALとコードシェアをする一方、ANAとはバンコク便への乗り継ぎ便をPG便として提供している。JAL・ANAどちらのウェブサイトから日本=サムイ線の旅程を検索しても、バンコク=サムイ間はPG便が最も多くの便数を運航し、JAL・ANAとの接続利便性がいい選択肢として出てくる。運賃は国際航空運送協会(IATA)ルールで案分されるので、JALとのコードシェア便でもANAとのPG便乗り継ぎでも、大きな違いはない。
ではいったい、あえてコードシェア便とするメリットとは何なのか。筆者としては、「基幹区間での選択の幅を広げ、相手に差をつけること」にあると考える。