MVNOの見方を変えた携帯電話市場の激変
そもそも、これまでなぜ、キャリアはMVNOを敵として認識していたのだろうか。その理由は、MVNOがキャリアからユーザーを奪うことで、キャリアが得られる1人当たりの客単価が下がってしまうからである。
例えば、これまでドコモの回線を直接契約していたユーザーが、ドコモの回線を借りているMVNOに乗り換えたとする。このことは、ドコモにとっては毎月数千円支払ってくれるユーザーを1人失うこととなり、MVNO経由の契約でドコモが得られる収入も、MVNOが回線を借りるのに支払う接続料のみとなってしまう。
売上がゼロになるわけではないものの、1人から得られる売上は大きく下がってしまう。そうしたことから、MVNOへユーザーが流出することは、キャリアにとってデメリットになると見られており、それがMVNOを敵視する動きへとつながっていたわけだ。にもかかわらず、キャリアがMVNOを味方として活用するようになったのには、「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」など、ここ最近の総務省の施策による市場変化が大きく影響している。
一連の総務省の施策によって、昨年にはSIMロック解除義務化、今年には端末の実質0円販売が事実上できなくなるなど、最近携帯電話市場に大きな変化が起きている。そしてこのことは、5万円、10万円といった高額キャッシュバックなど、端末の過剰な値引きによって他キャリアのユーザーを乗り換えさせる、奪い合い競争が終焉を迎えたことも同時に意味している。
日本の人口は減少傾向にあることから、携帯電話を利用するユーザーが大きく増えることは考えにくい。加えて総務省の施策によって、キャリア間のユーザー奪い合いも停滞しつつある。それゆえキャリアはユーザー獲得に重点を置く戦略から、現在抱えている自社ユーザーに対して付加価値を提供し、1人当たりの単価を高める戦略へと大きく舵を切っている。ドコモの「スマートライフ事業」や、KDDIの「auライフデザイン」など、自社ユーザーに対して通信以外のサービスを提供する取り組みは、そうした付加価値戦略の象徴といえるだろう。
しかし当然ながら、この戦略にマッチしないユーザーもいる。それは、付加価値サービスよりも、スマートフォンで快適な通信を、より安く利用したいと考えている人たちだ。そうしたユーザーは現在のキャリアの付加価値戦略に不満を抱き、今後MVNOなどに流出する可能性が高いと考えられる。