自分で恥ずかしくない作品を作る
――原作と映画の違いについて、どのように考えて撮影をされていますか?
『ホドロフスキーのDUNE』というドキュメンタリー映画を見た時に、ホドロフスキーが「原作があって映画化するときは、原作が花嫁だ」と言っていたんです。監督は新郎で、結婚して映画という子供をつくる、「純白のドレスのままでは子供は作れない」「脱がさなきゃダメだ」と。それは、一理あるなと思うんですよね。違う2人が出会って新しい物を生み出すには、そういう側面はあります。
――そう言われると、「原作レイプ」というスラングもありますね。
愛を感じないからそう言いたくなるんでしょうね。たとえ愛があっても、できあがった作品がそう見えなければ言いたくなるでしょうし。つくり手としては愛が伝わるかどうかは大切な部分ですね。
――今回、関係者の試写などで評判を聞くことが多いですが、撮影中に、「すごい映画ができる」といったような手応えはありましたか?
自分の好きな映画ができあがってるとは思いました。ただ、人がどう思うかはそこまで気にしていません。お客さんがどう感じるかは決められないです。宮崎駿さんも「自分の人生の中で恥ずかしいと思うような作品は残したくない」とおっしゃっていたらしいのですが、評価ではなく、自分で恥ずかしくないものを作りたいのが基本ですね。
ヒットさせるために、自分を曲げて恥ずかしいものを作って、コケた日には目も当てられないでしょう。作家的には「ヒットはしないけど、いい映画だよね」と言われる方が、心は楽ですよね。会社的にはしんどいかもしれませんが(笑)。
――自分を曲げずにつくることができたんですね。
運がいいのか、今まで自分が作ったものはどれもかわいいです。だから、ネットで悪口を書かれても「長文を書いたお前の時間をうばってるから勝ち!」と楽しめます(笑)。もし自分が恥ずかしい作品だと思っていたら、その言葉は痛いですよね。
30歳くらいからコツがつかめた
――かわいい子をつくるためのコツはありますか?
単純だけど、自分の好きなものがわかったのは、大きいです。30歳くらいからコツがわかるようになりました。それまでは、他人に言われることに反応してしまって、みんなが面白いと言うものに対して「わからないな」と思っても、話を合わせたくなる。映画祭に作品を出しても通らないから、賞の傾向や対策を考えて作って、自分の映画が好きかと言われるともはやわからなくなってしまったこともありました。
でも、何が好きかって結局バラバラなんですよね。「悪いところがあるけど、自分は好きなんだ」ということがわかれば、明確に好きな映画をつくることができます。ただ、それを周りが認めてくれるかはわからないので、運良く受け入れられたら、いいですよね。
――何か、コツがわかったきっかけはあるんでしょうか?
今回のプロデューサーが、その答えをくれた人だったんです。自分が映画祭で一次にも通らなくてもう辞めようかと思っていたときに、「吉田くんは、いつも送ってくる年賀状みたいな映画を作りなよ」と言ってくれました。
――一体どんな年賀状だったんですか?
はがきの周りを真っ黒にぬりつぶして、午年に、競馬で外れたおじさんが、家で首を吊るという4コマまんがの年賀状です(笑)。賞に迎合するよりも、そちらのテイストを出してみればと言われて、「辞める前にクソオナニー映画をつくってやれ」と思って作ったら、グランプリをいただきました。10年間一次審査も通らなかったのに! ギャップがすごかったです。
――グランプリ受賞から色々な作品を撮られるようになって、成長したと思う部分を教えてください。
たとえば今回、映画の中盤でタイトルを出すような演出もありますが、一歩間違えると「奇をてらっちゃった?」「すかしてるのか?」となりかねないんです(笑)。現実とやりたいことのバランスをとる技術は、だんだん身についてきたと思います。
『ヒメアノ~ル』
「なにも起こらない日々」に焦りを感じながら、ビル清掃会社のパートタイマーとして働く岡田(濱田岳)。同僚の安藤(ムロツヨシ)に、想いを寄せるユカ(佐津川愛美)との恋のキューピット役を頼まれ、ユカが働くカフェに向かうと、そこで高校時代の同級生・森田正一(森田剛)と出会う。ユカから、森田にストーキングされていると知らされた岡田は、高校時代、過酷ないじめを受けていた森田に対して、不穏な気持ちを抱くが……。
5月28日(土)TOHOシネマズ新宿ほか全国公開
(C)2016「ヒメアノ~ル」製作委員会