具体的なテクノロジーについて触れてみよう。研究が進められている3Dセンシングは「3Dレーザーセンサー技術」と「骨格認識技術」を融合したものになる。1秒間にレーザーを230万回パルス照射し、対象物から戻ってくるまでの往復時間を計測することで距離を算出、立体を認識する。さらに得た3Dデータから関節位置の3次元座標を推定し、ヒジやヒザの曲がり具合などを認識し、ワザの完成度の判定などに活用する。

右の写真が3Dレーザーセンサー。モニターに映り込んでいる人物の動きをリアルタイムで立体表示する

これまで、人間の動きを立体映像化するには、おもに「モーション・キャプチャー」という方式が用いられてきた。アニメ映画やゲームのムービーなどでお馴染みの手法だ。だが、モーション・キャプチャーは体中にマーカーを装着し、10台以上のカメラを駆使しなくてはならない。

体中にマーカーを取り付けての体操競技など非現実的だ。事実、白井選手もビデオメッセージの中で「センサーをつけて体操の動きを検証したことがありますが、とても違和感を覚えました」と語っている。

スポーツからほかの産業へ

富士通 執行役員常務 廣野充俊氏

さて、富士通が3Dセンシングに取り組むねらいは何か。

「富士通は24人のオリンピック選手、3人のパラリンピック選手を輩出し、川崎フロンターレや女子バスケットボールチームを所有するなど、スポーツ貢献に積極的」(富士通 執行役員常務 廣野充俊氏)というように、スポーツへの取り組みを盛んに行ってきた。さらに、無線通信による照度制御やスムーズな入退場管理が行える“スタジアムソリューション”を提供したり、上部のカメラで選手の動きをトラッキングできる“スマート体育館”を開発したりと、スポーツにICTを採り入れてきた事例がある。

この3Dセンシングを活用した採点システムもそうした流れのひとつ。まずは定点観測に向く体操競技の「あん馬」で実証システムを開発し、「鉄棒」や「跳馬」「床」といった広い動きとなる種目に適用していく。もちろん体操競技だけでなく、フィギュアスケートや高飛び込み、乗馬といった採点競技全般にこのシステムを導入したい考えだ。

そして、富士通がにらんでいるのがスポーツ以外の産業だ。3Dセンシングによる立体データを医療分野や健康増進、産業・文化といった面での活用を見据えている。たとえば“手術の手順”“陶磁器のろくろ回し”“能や歌舞伎など伝統芸能の動き”といったものを立体記録できるようにし、それぞれの産業の発展に寄与していくのがねらいだ。

国際体操連盟の渡辺氏は、新たな採点支援システムにより、体操競技のリズムが速くなると強調する。「今までより体操競技観戦がエキサイティングになるはずです」という言葉に、4年後の楽しみがひとつ増えた気がした。