通信事業者から総合商社へ

ではなぜ、ドコモは発想をここまで真逆に転換したのだろうか。それは、ドコモが単なる通信会社から脱却しようとしているからだと見る。

これまで、「+d」に関しては「農業ICT」「医療」「保険」「サイクルシェアリング」という、一見すると通信とも関係なければ、互いに関連性もなさそうな4つの業種について、取材を重ねてきた。この中で気付いたのは、それぞれの事業に共通する要素として「保険事業を除けば基本的に社会インフラの一部である」ということが挙げられる。

ドコモは農業、医療、保険、サイクルシェアリングなど通信とは一見関わりの薄い業種と手を組み新たな事業を展開している

NTTドコモはNTTグループの移動体通信事業として設立され、今やNTTグループの屋台骨を支えるまでに成長している。NTTは電電公社を受け継ぎ、固定網や移動体を問わず、通信事業によって成長してきた企業だ。そのDNAには深く「通信技術」という要素が組み込まれている。

今やインターネットが実生活と切っても切り離せない要素となっており、今後はスマートフォンやパソコンだけでなく、IoT(Internet of the Things:モノのインターネット)として、あらゆるモノがネットに接続できるようになるといわれている。

こうなると、現在の数倍から数十倍を超えるデータが常時やり取りされることになり、こうした時代が到来したとき、ドコモの通信インフラは、これまでの、いわば「必需品ではあるが、やや贅沢品でもある」状況から、「社会に欠かせないインフラ」へと進化することになる。

たとえばガス会社が、この三つ星レストランのガスは我が社のブランドです! などといちいち誇らないように、インフラというのは黒子に徹する地味な役割だ。しかしその一方で、これまでそのインフラを効率良く使えなかったり、よりよい使い方が可能な顧客と組めば、インフラの力を何倍にも増幅することができる。おそらく、ドコモがインフラ化した世界に描いているのは、そういった「つながるのが当たり前になった世界でのドコモの役割」なのではないだろうか。

そして、そういった姿は、すでに+dで一部現れているように、通信をベースに外部企業と連携し、新たなサービスや価値を生み出していく姿は総合商社のような存在にも映る。ただし、その総合商社はインフラの一部と決済手段、仮想貨幣にもなりうるポイント制度、ユーザーの個人情報(位置情報や移動情報を含む)そして全国に展開済みの、物理的な店舗ネットワークを持っているのだ。国内事業に限っていえば、これほど強力な武器を抱える企業もないだろう。

社会インフラ的資産とビジネスのほか消費者との接点となる店舗ネットワーク、ポイントプログラムなど多様な施策を打ち出しうる武器をドコモは数多く抱える

ドコモ自身、陶芸やそば打ちなど300以上のイベントを体験できる「すきじかん」などのサービスで、多様化するユーザーのニーズを掘り起こし、個別にパーソナライズして提供する仕組みを模索している節がある。このように、一方ではユーザーと密な関係を保ちつつ、もう一方では社会的インフラとしての役割を果たし、相互作用でこれまでにないサービスを生み出す、B2C、B2B、B2B2Cのすべてをこなせる新時代の総合商社。それがドコモが+dの先に見据えている姿ではないだろうか。

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