Asynchronous Computeに対応し、GPUのハードウェアリソースをより効率よく利用できる
ハードウェアとしての強化点に関してはこれまでに触れたとおりだが、今回のGeForce GTX 1080ではそれ以外の部分でも大きな強化が入っている。最も大きな改良は、Asynchronous Computeへの対応だ。Asynchronous Computeは、DirectX12でサポートされた機能の1つで、GPUの内部リソースの割り当てをより効率よく行う仕組みだ。
GPUはグラフィックス関連の処理以外にも、オーディオの処理や物理演算など多数の処理を行っているだが、従来であれば、そうしたグラフィックス的な処理と、オーディオや物理演算など汎用演算の処理は、GPUのリソースを静的に割り当てる形で処理してきた。
しかし、その場合、片方の処理が終わってしまうと、もう片方の処理が終わるまでGPUのハードウェアが待機する形になり無駄が生じていた。そこで、Pascal世代ではこのリソースの割り当てを動的に行うことが可能になっており、これまでリソースが待機していたところを、もう片方の処理を行うことで、トータルでこれまでよりも高速に処理を行えるようになる。
このほかにも、VRでATW(Asynchronous Time Warp、ATWに関しては大原雄介氏の別記事を参照)を利用して画像の差し替えを行う時に、処理が終わった後、ATWが実行されるまでタスクの中断を延期してグラフィックスの処理や演算処理を行うことが可能になる。
こうした機能をうまく活用することで、従来よりもハードウェアのリソースをよりよく使うことができるのが、Pascal世代のGPUの特徴といってよい。NVIDIAによれば、GeForce GTX 980に比較して、GeForce GTX 1080はゲーミングで1.7倍、VRでは2.7倍という性能向上を実現しているが、特にVRでの性能向上はこうしたアーキテクチャ部分での改良が多いと説明している。
また、GeForce GTX 1080は出力のサポートとして、DisplayPort 1.4とHDMI 2.0bに対応しており、いわゆるHDR(High Dynamic Range)の出力に対応している。ITU-Rの勧告であるBT.2020におけるHDRの仕様では、sRGBの色域カバー率33%から75%に大きく向上しており、対応ディスプレイを利用するとこれまでよりも豊かな色域で表現することができる。
ただし、現状ではHDRに対応しているディスプレイは、ほとんどが4Kないしは8Kの民生用テレビで、PC用のディスプレイというのは業務用など一部製品にとどまっている。来年に向けて徐々に市場に登場する見通しだが、すでに4KテレビなどでBT.2020に対応したパネルを採用した製品も出始めており、そうした製品にPCを直接テレビにつないだり、日本では未発売だがShieldコンソール経由で出力するなどの使い方が可能になる。
GPU Boost 3でオーバークロックの自由度が高まる
GeForce GTX 1080では、プラットフォーム周りでもいくつかの拡張が加えられている。1つはGPUの自動オーバークロック機能であるGPU Boostが、第3世代となるGPU Boost 3へと強化されている。GPU Boost 2では、マージンを取るために、オーバークロックできる周波数と電圧がリニアに変動していた。
つまり問題が無い程度の設定がある程度用意されていて、その範囲内でのみ電圧とクロック周波数が変動していた。この仕組みの良いところは、ユーザーが無理な設定ができないようなマージンが取られていることで、オーバークロックなのに安定して動くということがある程度担保されていた。
しかし、GPU Boost 3では電圧設定の地点が自由に設定できるようになるため、マージンギリギリを狙って設定することが可能で、より高いクロックで動かすことができる可能性にチャレンジできる。
ただし、マージンギリギリを狙うということは、マージンを超えてしまう可能性もある。その時にはPCがハングアップし、最悪の場合はGPUそのものを破壊してしまうことになる。そのリスクとのトレードオフということになるので、無理な設定は控えた方がいいだろう。
なお、そうしたユーザーでも安心(?)してオーバークロックができるようにメーカーによってはスキャナーと呼ばれる機能を用意して、どこまでなら大丈夫かということをチェックする機能もある。
ティアリングと入力機器の遅延を抑える「Fast Sync」
また、VSYNCの設定に新しくFast Syncという設定が用意される。VSYNCというのは、ディスプレイのフレームレート(一般的には60フレーム/秒)に合わせて表示する設定がVSYNC ON、合わせないで表示する設定がVSYNC OFFとなる。
VSYNCをオフにするとより高いフレームレートでゲームをプレイでき、マウスやパッドからの入力の遅延を感じないで済むが、ティアリングと呼ばれる画面の揺れが発生する。それに対してVSYNCをONにするとティアングは発生しないが、マウスなどからの入力の遅延を感じることになる。
このため、素早い対応が必要なゲームなどではVSYNCをオフにしてプレイするというのが一般的だが、やはりティアリングが気になるというユーザーも少なくないだろう。Fast Syncはこの中間の設定で、VSYNC OFFに比べると若干の入力の遅延はあるが比較的遅延は小さく、ティアリングも発生しない。このため、Direct X9のFPSゲームなどに適しているとNVIDIAでは説明している。
新しいSLI HBに対応、今後は2wayのSLIが奨励環境に
今回のGeForce GTX 1080では、SLI周りも大きく手を入れられている。GeForce GTX 1080のカードには、従来通り2つのSLIコネクタが用意されている。従来のSLIでは、この2つ目のSLIコネクタは、3wayないしは4way構成にする時のみ利用されていたが、GeForce GTX 1080では帯域幅の向上の為、2way構成であっても2つのコネクタを同時に利用するようになっている。
また、これに合わせて「SLI HB」と呼ばれる新しいブリッジが導入され、インターフェースの動作周波数が従来の400MHzから650MHzに引き上げられている(なお従来のブリッジも利用することは可能だ)。
なお、このGeForce GTX 1080からは、SLIは2wayが奨励されるようになっている。というのも、DirectX12でのマルチGPUの機能の規定によるモノで、DirectX12で規定されている3つのマルチGPU(MDA、LDA Implicit、LDA Explicit)のうち、NVIDIAのSLIはLDA Implicitに該当するマルチGPUという扱いになる。
では、3way、あるいは4wayのSLIがサポートされないのかというとそうではなく、NVIDIAのWebサイトでEnthusiast Keyと呼ばれるアンロックコードを入手してシステムにインストールすると利用できるようになる。
一般ユーザーには3wayや4wayはお奨めしないというのがNVIDIAの立場ということになるので、そのハードルを越えることができるマニアなユーザーのみ3wayや4wayを使って欲しいということだろう。